例会

第66回例会

日時:2008年9月20日(土) 13:30~17:30
場所:京都ドイツ文化センター
<<内容>>

研究発表会

司会者:河崎 靖 氏(京都大学)

研究発表1
発表者:井上 智子 氏 (京都大学院生)
題目:心態詞 dochの歴史的考察 ―中高ドイツ語を主に―

[発表要旨]

 心態詞は、通常ドイツ語で文法カテゴリーと見なされるよりむしろ、話者の心的状況を示す語彙カテゴリーとして扱われている。このような語彙カテゴリーは、対話を循環させるのに重要な役割を果たす。本発表では、現代ドイツ語において心態詞として多様に用いられながらも1970年以降コミュニケーション理論が発展するまで注目されてこなかった、とりわけdochを取り上げ、歴史的に考察する。その際、中高ドイツ語の作品『哀れなハインリヒ』を中心に、dochがどのように使用されていたのか、文脈から観察すると共に写本での表れ方も考慮し、データを用いて実証的に検証したい。


研究発表2
発表者:安永 昌史 氏(フランクフルト=ゲーテ大学院生)
題目:トカラ語とはいかなる言語か?―ゲルマン,スラヴ,インド=イラン語等との言語特徴的な諸側面の対比による、その印欧語的性格の再描写―

[発表要旨]

 中央アジア東部において千年以上前に話されていたトカラ語(A, B方言)は、他に同じ語派を形成する言語が確認されない、孤立した印欧語の一つである。これはすなわち、祖語を経由しなければ、トカラ語は他の印欧諸語との語源的な近縁関係を持たないことを意味する。しかしながら、それは他の言語から見てトカラ語が極端に異質であることを意味するのではない:トカラ語に見られる幾つかの言語構造的な特徴が、語派の壁を越えて他の印欧諸語にも当然見られるのである。本発表では、トカラ語の音韻,形態,統語ならびに語彙的な特徴の幾つかを採り上げ、ゲルマン,スラヴ,インド=イラン語派等におけるそれらと対比することにより、トカラ語の印欧語的性格を今一度、見つめ直すきっかけとしたい。


研究発表3
発表者:尾崎 久男 氏(大阪大学)
題目:英語における借用翻訳の通時的考察:dépendre dedepend ofdepend onか?

[発表要旨]

 英語の歴史上、フランス語の影響は絶大であり、英語は単語レベルのみならず、句や節レベルまで借用してきた (後者の例としてit goes without saying that(<cela va sans dire que) が挙げられよう)。確かにtake part inに注目しても、類似表現がフランス語 (prendre part á) に存在するため借用翻訳のようである。ところが、通時的に古英語dael-niman(ドイツ語teil-nehmenを参照)も考慮すべきであり、英語本来の語法をフランス語の単語によって置換したに過ぎない。結局、ある表現が別の言語の借用翻訳だという結論は容易に導き出せなくなる。本発表では、英語における動詞句レベルの借用翻訳を通時的な観点から再考してみたい。


臨時総会

第65回例会

日時:2008年5月31日(土) 13:30~17:30
場所:京都ドイツ文化センター
<<内容>>

研究発表会

司会者:齋藤 治之 氏(京都大学)

研究発表1
発表者:片岡 宜行 氏 (福岡大学)
題目:動詞付加辞の機能について

[発表要旨]

 ドイツ語の不変化詞動詞(分離動詞)に関する近年の研究では、不変化詞動詞が「動詞付加辞(不変化詞・分離前綴り)+動詞」という複合的なまとまりとして捉えられ、「前置詞句+動詞」などと平行的なものとして論じられることが多い。動詞付加辞が前置詞句と対応・競合するものであるならば、動詞付加辞を基礎動詞に付加することによって文の構造に変化が生じることになる。例えばden Zettel an die Wand kleben という句を不変化詞動詞を用いて den Zettel anklebenと言い換えると、前置詞句が消失し、項が一つ減少することになる。本発表では、このような文構造の変化を中心に、動詞付加辞のもつ機能について考察したい。


研究発表2
発表者:阿部 美規 氏(富山大学)
題目:正書法改革の改革について―分かち書き・続け書き規則の場合―

[発表要旨]

 ドイツ語のいわゆる新正書法は、「正書法改革の改革」とまで呼ばれた大幅な規則改変を経て、2007年8月1日、当初の予定より遅れること2年の後にようやくドイツにおける正書法上の唯一の拠りどころとなるに至った。これをもってドイツ語正書法をめぐる問題は一応の解決をみたわけであるが、一方で、度重なる規則変更の結果、最終的にどのように綴るのが正しいのか、多くの人にとって必ずしも明確ではなくなったこともまた事実であろう。このような現状に鑑み、本発表ではドイツ語新正書法規則の中でも特に混乱を極めた「分かち書き・続け書き規則」が、新正書法導入以後現在に至るまで、いかなる理由からどのように変更されたのか、またそれによってどのような問題が解決されたのかなどの点を明らかにすることで、正書法に纏わる混乱ないし不安の一端を解消することを試みたい。


定例総会

第64回例会

日時:2007年12月15日(土) 13:30~17:30
場所:京都ドイツ文化センター
<<内容>>

研究発表会

司会者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)

研究発表1
発表者:長縄 寛 氏 (関西大学非常勤講師)
題目:英雄叙事詩『クードルーン』に見られる定関係代名詞構文について

[発表要旨]

 定関係代名詞derによって導入される関係文は、おおむね上位文中の名詞成分(=先行詞)をより詳しく説明する副文と理解されるが、中高ドイツ語期にはこのような用法の他にも様々なタイプの関係文が存在していた。例えば先行詞を自らに含み、その機能を兼ねるものや、関係代名詞の格が先行詞の格
(あるいはその逆) に合わせられる牽引(Attraktion)のケース、また関係代名詞によって導入された形式上の関係文が意味上の条件文(wenn einerの意)となることもまれにある。さらに中高ドイツ語期は、副文中の定動詞を後置させることによって主文中の動詞語順との区別をなすという規則が一般化する以前の中間段階にあたり、一般的に副文の定動詞は少なくとも主文の定動詞よりも後方に置かれていたようである。しかし『クードルーン』のような韻文作品では各詩行末の語が押韻に用いられるため、動詞以外の語によってこの位置が占められれば、特に短い関係文では主文の動詞と同様の語順を取らざるを得なかったという可能性もある。本発表では『クードルーン』に見られる定関係代名詞構文に関して、上で挙げたような諸特徴、問題点を、具体的に例を示しながら明らかにしたいと思う。


研究発表2
発表者:塩見 浩司 氏(関西大学非常勤講師)
題目:ゴート語動詞接頭辞の意味に関して

[発表要旨]

 ゴート語の動詞接頭辞を取り扱うに際して、これら接頭辞には単純動詞に語彙的な意味を与えるものと、ある一定の動作のあり方を与えるものがあるのはよく論じられるところである。例えば前者ならqiman(nhd. kommen) : gaqiman (nhd. zusammenkommen)、後者ならswiltan (nhd. im Sterben liegen) : gaswiltan (nhd. sterben)のような場合である。今回の発表では後者のものに焦点をあててゴート語動詞接頭辞に関していくつかの問題点を考えてみるが、ga-以外の接頭辞にも焦点をあててみたい。またそのほかに新約聖書の翻訳という観点からも多少の言及をすることになるだろう。


研究発表3
発表者:牧野 節子 氏(関西外国語大学非常勤講師)
題目:音楽と言語―音楽と言語とのたえざる対決としての西洋音楽史―

[発表要旨]

 西洋音楽における音楽と言語の関連について考察する際に、T.G.ゲオルギアーデスの著書『音楽と言語 (Musik und Sprache)』を避けて通ることはできないであろう。ゲオルギアーデスは『音楽と言語』の中で、ミサ作品を取り上げながら、二つの異質な音楽観がそれぞれお互いを主張しあうプロセスとして西洋音楽の歴史を解説している。その音楽観とは、「装飾しての音楽」つまり器楽的な考え方と、「言葉の具現としての音楽」という二つの態度なのである。
本発表では実際の音楽例を用いて、上記の二つの音楽観が綜合されていくプロセスに焦点をあてながら、音楽と言語の関わりについて考察する。


臨時総会

第63回例会

日時:2007年9月15日(土) 14:00~17:30
場所:京都ドイツ文化センター
<<内容>>

研究発表会

司会者:河崎 靖 氏(京都大学)

研究発表1
発表者:大宮 康一 氏 (名古屋大学院生)
題目:現代アイスランド語の格における言語変化について

[発表要旨]

 現代アイスランド語は北ゲルマン語に属し、現代ゲルマン諸語の中でも保守的であり、形態的に文法性(男性、女性、中性)と格(主格、対格、与格、属格)を保持している。しかし、保守的ながらも格にまつわる言語変化が報告されている。その変化とは、いわゆる斜格主語に関わる与格置換(Dative Substitution)と主格置換(Nominative Substitution)、そして新たな受動態構文の“new” impersonal構文の3つである。本発表は、最も近年に報告されている“new” impersonal構文が与格置換と主格置換の影響による現象ではないかという可能性に着目し、それら3つの変化の相互作用について構文の観点から考察を試みる。


第29回言語学リレー講義
講師:在間 進 氏(東京外国語大学)
題目:ドイツ語研究のあり方と方法論


討論会
題目:個別言語研究の成果と今後の課題

第62回例会


日時:2007年5月26日(土) 13:30~17:30
場所:京都ドイツ文化センター
<<内容>>

研究発表会

司会者:齋藤 治之 氏(京都大学)

研究発表1
発表者:西野 由起江 氏 (京都大学大学院生)
題目:女性名称におけるアイデンティティとイデオロギー ──「母性」という語をケーススタディとして──

[発表要旨]

 女性名称が、男性名称に比べて一般的な人を表す語として使用されてこなかったことに着眼し、各時代の社会的な観念のパターンが付加され使用されてきたことを検討する。女性名称の問題点を指摘する先行研究の多くが、フェミニズム運動の一環として言語表現の是正に注目しすぎてきたことを指摘し、中立語の有用性を認めつつもドイツ語名詞の文法性まで中立語化することは行き過ぎた矯正であることを検証する。
また、言語表現における性差が示す内容には、生物学的な性だけではなく役割としてのジェンダーも示すことに注目し「母性」という語のケーススタディをもとに女性性を表す語を分析する。本発表においては、ジェンダー・スタディーズの視点を用いて、語に含まれるアイデンティティとイデオロギー関係の解明を試みる。


研究発表2
発表者:田原 憲和 氏(大阪市立大学非常勤講師)
題目:ルクセンブルク語における外来語について

[発表要旨]

 ルクセンブルクの公用語の一つであり、唯一の国語であるルクセンブルク語は、これまで主として話しことばとして用いられていた。近年においては、徐々にではあるが書きことばとしても使用されるようになり、1999年には新たな正書法が制定された。
しかし、以前からルクセンブルク人の主要な書きことばとしてドイツ語が広く用いられており、そのうえ、元来ルクセンブルク語はドイツ語のモーゼルフランケン方言に属する言語である。ゆえに、本来のドイツ語式綴りとルクセンブルク語式綴りが併用されるなど、ルクセンブルク語正書法における外来語の取り扱いは複雑である。
本発表では、ルクセンブルク語正書法を概観し、その中でもとりわけ外来語表記における諸規則・諸傾向に注目する。ルクセンブルク語正書法を通じ、ルクセンブルクにおけるドイツ語の役割についても考察する。


研究発表3
発表者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)
題目:現在完了の「意味」について─―通時的考察にもとづいて―─

[発表要旨]

 ドイツ語史において現在完了形が初出するのは古高ドイツ語においてである。主要な史的文法書や研究書では、この時期の原初的な出現例に見られる形態的・統語的特徴からこの形式が持つ構造的特徴を解き明かし、これを出発点にしてその時制・アスペクト的意味(用法)記述を行っている。
ところでBrinkmannは古高ドイツ語に関する論考(1965)の中で、完了形の例に、まとめた(zusammenfassend)り、強調した(nachdrückend
)り、また因果関係(Kausalität
)を表したりする意味機能をみている。本発表では、彼の意味分析を捉えなおし、さらにこれを中高ドイツ語の例にも応用して、この形式に付随して現れると考えられる意味論的特徴について指摘したい。現在完了の意味論的分析と言えば、時制やアスペクトの観点からの分析が一般的であるが、それらとは異なる観点からのアプローチの可能性について議論し、時制研究の問題点や課題等も明確になればと思っている。

第61回例会(20周年記念コロキウム)

日時:2006年12月3日(日) 13:00~16:30
場所:京大会館210号室
<<内容>>

「これからのドイツ語学・言語学を考える」――「京都ドイツ語学研究会」発足20周年を記念して――

司会者:湯浅 博章 氏(姫路獨協大学)


1. パネリストからの提言
パネリスト:
西本 美彦 氏(関西外国語大学)
乙政 潤 氏 (京都外国語大学)
深見 茂 氏 (大阪市立大学名誉教授)
武市 修 氏 (関西大学)


2. ディスカッション

[コロキウム要旨]

 「京都ドイツ語学研究会」は1986年12月13日に発足しました。発起人はわずか5人で、当初の入会者数は22人でした。この研究会が実質的な活動を始めたのは1987年からでありますので、本年の12月は発足20周年という年に当たります。第1回例会に関する報告書は翌年の1987年に「京都ドイツ語学研究会会報 第1号」としてまとめられています。
会報第1号の1ページ目に記された『「京都ドイツ語学研究会」発足にあたって』という短い文章の出だしは次のように書かれています。「京都には今まで、ドイツ語学に関心をもつ研究者が集い合ってお互いが研究交流をしたり、学術資料を提供し合う場がなく、研究活動も孤立化する状態が続いてきました。(中略)ドイツ語学、ドイツ語教育およびこれらに関する分野の研究に関心をもつ研究者、大学院生らが集まり、相互の研究交流を深めることによって、それぞれの研究の充実を目指すことができるような会を結成しようとする声が聞かれていました。・・・」
本研究会はこのような趣旨で発足したのでありますが、その後の20年間に会員数も増加し、現在では100人を超す規模に発展いたしました。この20年間の研究会活動は多岐にわたり、ドイツ語学やドイツ語教育に限らず、他言語研究およびなんらかの形で言語に関係する領域にも積極的に取り組むと共に、外国の研究者の講演会を頻繁に開催するなどの活動もしてきました。また例会で発表された言語理論や研究領域分野も伝統文法から比較言語学、生成文法、ヴァレンツ理論、モンタギュー文法、語用論、テクスト言語学、認知言語学などなど数え切れないほど多様でありました。本研究会の活動はきわめて活発な時期と、時には幾分低迷気味であった時期がありました。しかしともかく20年の間この研究会が消滅することなく続いたという事実は、先に紹介しました発足時の趣旨が今でも有効であることを証明するものであると思います。

しかしながら、ドイツ語を取り巻く昨今の状況はドイツ語教育に限らず、ドイツ語学、ドイツ文学そのほかのドイツ関連の研究全般にとって極めて憂慮すべき危機感を募らせています。このような現実の中、今回のコロキウムでは過去20年間の本研究会の活動成果を評価しつつも、それに甘んじることなく、現状を冷静に分析し、従来の研究の視点を再検討すると同時に、今後のドイツ語学・言語学ひいてはドイツ研究一般に関する研究を深めていくためには、どのような理論的・方法論的なアプローチが求められるかについて考えてみたいと思います。ドイツ語学、ドイツ文学、言語学の分野からの4名のパネリストによる発表を基に、自由に議論を交わすことによって、私たちが進むべき方向を探ることが出来ればと思います。

第60回例会(研究発表会)

日時:2006年10月7日(土) 13:30~17:30

場所:キャンパスプラザ京都6階 京都産業大学サテライト第2講習室

<<内容>>

発表1
発表者:工藤 康弘 氏(関西大学)
題目:接続法の時制の一致について ――初期新高ドイツ語の場合──

[発表要旨]

 私が学校で英語を習ったとき、間接話法では時制の一致に注意しろとやかましく言われた。翻ってドイツ語の授業では時制の一致を習ったことも、また教えたこともない。「ドイツ語に時制の一致はない」という言葉をときどき耳にするが、果たしてこれは正しいのであろうか。英語の間接話法では主として直説法が用いられ、そこに時制の一致がある。これに対してドイツ語では直説法と接続法2つの手段があり、前者では英語と同じ時制の一致があると思われる。接続法の場合、1式を現在形、2式を過去形と呼ぶならば、時制の一致はない。つまり主文の時制とは無関係に、1式または2式を選ぶことができる。私たちが「英語には時制の一致があり、ドイツ語にはない」と言うとき、英語の直説法とドイツ語の接続法というまったく別次元のものをいっしょにしているのではないだろうか。
本発表の主眼は接続法における時制の一致が初期新高ドイツ語期にどの程度存在しているか、あるいは崩れているかを調べることにある。私はこれまで接続法の用法、未来形と
wollen/ sollen
の関係、würde文の発達といった研究の副産物として、時制の一致にも折に触れて言及してきた。すなわち大雑把に言って初期新高ドイツ語には時制の一致が機能しているようである。このことをより精密に裏づけ、さらにこの時制の一致が崩壊するプロセスまでを明らかにするため、ある特定のテキストではなく、複数のテキストを含んだコルプスを用いた調査を行ないたい。本来なら間接話法や目的文等、時制の一致が関わる文タイプを出発点にすべきであるが、今回使用するボン・コルプスのように、デジタル化された資料から検索機能によって間接話法を集めるのは容易ではなく、何らかの工夫が必要である。今回はこの方法をとらず、かつて未来形との関わりで収集した
werden のうち、利用されずにいた多くの受動文を用い、それらが間接話法等に現れたケースを分析する。


第28回言語学リレー講義
講師:下宮 忠雄 氏(学習院大学名誉教授)
題目:ヨーロッパ諸語の中のドイツ語の位置


発表2
発表者:増田 将伸 氏(京都大学院生)
題目:『どう』の語用論的分析 ――会話中の質問の用法から――

[発表要旨]

 様態の不定副詞である「どう」は、興味深い語用論的問題をはらんでいる。質問、感嘆に加えて「どう~か」「~かどうか」などの形で不定の叙述にも用いられる点は、各発話行為間の連続的な関係を体現している。また、質問に用いられる際には、指す内容があまり限定的でないために、文脈依存的な性質を強く持っている。本発表では、『日本語話し言葉コーパス』の対話例で質問に用いられている「どう」の用例を主に取り扱い、会話分析の手法で分析する。「どう」を用いた質問をめぐるやり取りが形式や会話中の位置によって異なる様子を確認し、そこに表れる会話参与者の相互行為の検討を通じて、会話の中での「どう」の用法を記述する。「どう」は日本語の副詞であるが、日本語学にとらわれず語用論の視座から発表を行う。

第59回例会(研究発表会)

日時:2006年5月27日(土) 13:30~17:30
場所:京都ドイツ文化センター
<<内容>>

1.研究発表
発表者:尾崎 久男 氏(大阪大学)
題目:初期近代ゲルマン語の同族目的に対する許容態度 ──「詩編」および『新約聖書』の用例を中心に ──

[発表要旨]

 これまで『聖書』の文体の大きな特色の一つとして「反復」が挙げられてきた。この技巧はもちろん古典語に限定されず、ゲルマン語本来の修辞法でもあったであろうが、そこには同一(あるいは同類)語句の繰返しによって、意味の強調などの文体的効果を与え、同時に文にリズム(特に頭韻の働き)を加えようとする試みがかなり顕著に認められる。この反復の機能はまた、『聖書』特有の慣用表現とされる同族目的語の語法にも現れていると考えられる。
従来から英語聖書欽定訳(1611)には同族目的語の豊富な資料が見出され、貴重な宝庫となっていると指摘されてきた。ところが、欽定訳の90%は基本的にティンダル訳(1526)によるものと考えられている。また、ティンダルはイギリスを逃れて、ドイツのヴィッテンベルクで翻訳を続けたが、彼の翻訳にはルターの影響が大きい。さらに、オランダ語聖書公定訳(1637)やデンマーク語聖書クリスチャン3世訳(1550)などもルター訳(新約1522;旧約1534)の影響を強く受けている。
本発表は2つの部分から成立っている。前半ではまず、後半において行う同族目的語の統語考察の基礎となるべきいくつかの点について述べる。すなわち、中世ゲルマン語聖書における同族目的語を概観して、その特異的な統語的特徴を明らかにする。さらに後半部は、16、17世紀の生んだ、英語・ドイツ語・オランダ語による『聖書』翻訳の中で同族目的語に対する、それぞれの許容態度を考察しようとするものである。 なお、今回の調査では言語資料としてノートカーによる「詩編」や『ヴァハテンドンク詩編』、およびウルフィラによるゴート語聖書や『タツィアーン』も扱うため、特に「詩編」と『新約聖書』の翻訳における同族目的語の用例を中心に調査を行った。


2.研究発表
発表者:柴崎 隆 氏(金城学院大学)
題目:スイス・ドイツ語方言の言語的特徴に関して

[発表要旨]

 スイスのドイツ語圏はまさにヨーロッパにおけるダイグロシア(2変種併用)の典型的な地域とされてきた。社会言語学者ファーガソン(Ferguson)の定義によれば、ダイグロシア(Diglossie)とは同一言語の2変種(上位変種と下位変種)が相互補完的にそれぞれの社会的機能に応じて使い分けられている状況を指している。すなわちスイス人同士の日常の会話では一般的に(地域ごとに多少なりとも異なる)スイス・ドイツ語方言が用いられるのに対し、一方で学校の授業用語や車内放送等、公的度が高い場合と、公私の区別なく文章語一般はスイス版標準ドイツ語が用いられてきた。しかし1960年代以降の第五次の方言化の波(Mundartwelle)以降、上位変種であるスイス版標準ドイツ語が本来占有してきた領域まで下位変種であるスイス・ドイツ語方言が侵食しつつある状況にあり、この21世紀初頭は、これまで以上に方言がスイスにおける活力あるコミュニケーション手段となっているとまで言われている。スイス・ドイツ語方言のこうした隆盛にもかかわらず、残念ながら日本においてはドイツ語のこの変種に関してあまり知る機会がないのが実情といえよう。今回は谷間の数ほどあると揶揄されるスイス・ドイツ語諸方言の中で最も話者数が多く(スイス国民の約1/4)、スイス最大の都市として経済的・文化的にも影響力のあるチューリヒのドイツ語方言(Züritüütsch)を中心に、スイス・ドイツ語方言に広く観察される言語的特徴の一端を紹介するとともに、中高ドイツ語の直接の後裔としてのアレマン方言の代表格ともいえるスイス・ドイツ語方言を、スイスで市販されている教材を用いて聴覚的にも体験してもらう。


3.定例総会

第57回例会(研究発表会)

第57回例会(研究発表会)

日時:2005年9月10日(土) 13:30~17:30
場所:京都ドイツ文化センター
<<内容>>

研究発表会

司会者:河崎 靖 氏(京都大学)

研究発表1
発表者:檜枝 陽一郎 氏 (立命館大学)
題目:不定詞と分詞の相克──中世期の低地言語の事例から──

[発表要旨]

現在のドイツ語では、gehen が zuのない不定詞つきで用いられることはあまりない。他方、kommen が同様に使われる場合には、ふつうは動詞の過去分詞とともに用いられ、不定詞をともなう場合は zu不定詞とするのが通例である。しかし中世期の言語を考察すると、以上のような移動を表す動詞は、不定詞や現在分詞また過去分詞とともにより自由に用いられており、上述した現代ドイツ語の例は用法の狭化ないし縮小を表している。中世期から現代語にいたる経緯を追いながら、その背景をさぐるつもりである。

 


研究発表2
発表者:平井 敏雄 氏(学習院大学)
題目:中世語研究と現代語研究の接点を探る──『枠外配置』に見るドイツ語統語構造の歴史的変化──

[発表要旨]

古高ドイツ語・中高ドイツ語には、導入辞を伴う従属文において、動詞末尾配置(V/E)を示さない文が広範に見られる(例:dhazs dher selbo gheist ist got「この霊が神であるということ」(Isidor)。下線部が定動詞)。現代ドイツ語では、文の右の枠の外に構成素があらわれるこの構造は「枠外配置」と呼ばれ、V/Eという原則に対する一種の例外的な現象と見なされている。本報告では、古高ドイツ語・中高ドイツ語におけるこうした語順を、枠外配置の一種であると仮定し、Isidor(古高ドイツ語)・Tauler(中高ドイツ語)をサンプルに、現代ドイツ語とは異なるその出現の条件を明らかにすることを試みる。

 


研究発表3
発表者:嶋﨑 啓 氏(東北大学)
題目:他動詞の反使役化の諸相──再帰動詞と他自動詞を中心に──

[発表要旨]

現代ドイツ語において sich öffnen のような再帰動詞と brechenのような他自動詞は、どちらも他動詞構文の対格目的語が再帰動詞および自動詞構文の主格主語になるという点で共通する。しかし歴史的に見ると、再帰動詞においては主語はもともと「人間」に限定されていたのであり、「人間」のような内在的力を持つものの変化の表現から内在的力のない「物」の変化の表現へと意味拡張が行われて、「物」が変化の対象になることが可能になったのに対し、他自動詞においては、随伴動詞や相互動詞を除けば、変化の対象は典型的には「物」であったという違いがある。本報告は、そのような違いが現代語における再帰動詞と他自動詞の意味的相違にも反映されていることを示す。

第56回例会(研究発表会)

日時:2005年5月28日(土) 13:30~17:30
場所:京都ドイツ文化センター
<<内容>>

1.ドイツ語教育シンポジウム 「到達度から考えるドイツ語学習への動機付け」

司会者:桐川 修 氏(奈良高専)

基調講演
講師:Rita Sachse-Toussaint(Goethe-Institut/Osaka)
題目:Die neuen Prüfungen “Start Deutsch”:
Format-Voraussetzung-Motivation


報告1
報告者:齋藤 治之 氏(京都大学)
題目:独検(ドイツ語技能検定試験)の現状と課題 ── 実例に基づいて──


報告2
報告者:湯浅 博章 氏(姫路獨協大学)
題目:第2外国語の授業における到達目標と動機付け


2.自由討論会

[シンポジウム要旨]

 
いわゆる旧文部省の「大綱化」以来、「ドイツ語教育の危機」に対してはさまざまな形で議論され、ドイツ語教育の改善が試みられてきました。京都ドイツ語学研究会においても、これまでにさまざまな側面からドイツ語教育の改善について考えてきました。その中では、それぞれの教育機関における制度的な問題、効果的な授業を行うためのハードウェア、ソフトウェアの問題、ドイツ語学習者の激減を食い止め、少しでもドイツ語履修者を増やすための動機付けの問題、私たち教員の教え方の問題等を取り上げてきました。こうした流れを踏まえた上で、今回のシンポジウムでは、これまでは中心テーマとして取り上げてこなかった「到達度」という問題から「ドイツ語教育の危機」に抗するための方策を探ることにしたいと思います。
「到達度」はドイツ語教育のいわば「出口」であり、どのような目標を設定して授業を行い、最終的に授業の成果が見られたのかどうか、またその目標設定が妥当であったかどうかを診断する重要な要素ですが、ドイツ語教育の改善についての議論はともすれば「入口」周辺の議論に終始することが多いように思われます。けれども、近年の学生の学力低下や厳しい就職状況等の結果、学生がどの外国語を選択するかの基準に考えているのはドイツ語を学べばどのような役に立つかという「出口」のイメージであり、ドイツ語教育の振興を図るためにはこの「出口」を考え直しておく必要があるように思います。
「到達度」を計る試験としては、普段の私たちの授業における試験の他にも、ドイツ語技能検定試験(独検)のような検定試験が考えられます。また、ドイツ語圏の国々においてもEU評議会の新たな枠組みに基づいて、例えばGoethe-InstitutのStart
DeutschやZD、ZMPのような検定試験が整備されており、これらは日本においても受験することが可能になっています。しかしながら、こうした試験はどれも目標としているところがさまざまで、それぞれの試験に合格すればどのような効果があるのかが見えにくく、学生へのドイツ語学習の動機付けには結びついていないように思われます。そこで、今回のシンポジウムではそれぞれの試験の性格や目標設定を再確認して、今後どのような到達目標を立てればドイツ語学習に対する学生のモティベーションを高めることができるのか、ドイツ語教育の振興を図ることに繋がるのかを参加者の皆様とともに考える機会としたいと思っております。

3.定例総会