例会

第112回例会

日時:2024年525日(土)13301730(予定)

場所:会場:キャンパスプラザ京都6階 第1講習室

<<内容>>

研究発表1
発表者:下村 恭太 氏(京都大学大学院)
題目:定冠詞および人称代名詞の使用における自然性と文法性の不一致現象についての一考察

[発表要旨]

 本発表では,ポーランド南部のヴィラモヴィッツェで話されているドイツ語系変種のヴィラモヴィアン語において,定冠詞や人称代名詞が使用される際に指示対象との間に生じる自然性と文法性の不一致現象に着目する。標準ドイツ語ではdas Mädchenをはじめ一部の名詞で当該現象が観察される一方で,ドイツ西部・南部諸方言ではより頻繁に見られる。本調査の結果,ヴィラモヴィアン語では女性を指示対象とする際に当該現象が多く確認された。同様の傾向は上述のドイツ語諸方言でも見られるが,地理的に離れたヴィラモヴィッツェで観察される要因については明確ではない。以上より,本発表では当該現象の生起傾向を明らかにし,その要因について考察する。

 


研究発表2
発表者:白井 智美 氏(京都産業大学)
題目:情報の分かりやすさについて ―比喩表現を手がかりに

[発表要旨]

 様々な臨床評価試験が,比喩を文字通りの意味に理解してしまう言語障害について報告している。これによって,「言外の意味」の理解に困難のある彼らへの情報提供では「比喩を用いない」という合理的配慮が求められているのが現状である。しかし,これら評価試験において,比喩理解力は「二つの概念から類似性を取り出す能力」として測定されている。本発表では,「比喩の段階性」に注目し,段階性をもたらす要因である (1)比喩の慣習化 (2)源泉領域と目標領域の遠近,に関して異なる段階にある表現についてテストすることで,より正確に彼らの比喩理解力を把握することを目指す。本発表では「比喩の段階性」テスト案を紹介する。

 


質疑応答

司会者:吉村 淳一 氏

中西 志門 氏(発表1)

大喜 祐太 氏(発表2)

 


定例総会

第111回例会(対面開催)

日時:2023年12月16日(土)13:30 ~ 17:30

場所:京都外国語大学4号館5階452教室

<<内容>>

研究発表1
発表者:井上 瞬 氏(京都府立大学非常勤)
題目:イギリス・ルネサンス演劇における等位名詞句の人称代名詞の格について

[発表要旨]

  現代英語における等位名詞句の人称代名詞の格の非標準的用法についてはしばしば研究の対象となっている。また、同様の用例が少なくとも16世紀の文献において既に見出されることも指摘されてきた。しかしながら、初期近代英語期(1500–1700)における等位名詞句の人称代名詞の格については、これまで研究が十分に行われて来たとは言い難い。そのため、当時の資料としてWilliam Shakespeareらによって書かれた演劇を対象に網羅的な調査を行い、その結果見られた傾向に関して考察を行うとともに、現代英語との相違点についても触れたい。


研究発表2
発表者:信國 萌 氏(大阪公立大学)
題目:評価を表すドイツ語形容詞 gut, schön とその評価対象について
-事象や命題とのかかわりを中心に-

[発表要旨]

 gut, schönはともに対象への肯定的な評価を表す形容詞である。両者は同じ統語的環境に現れていても、その意味的な評価対象が異なることがある。例えばein guter/schöner Tänzerでは、前者は「ダンス」に対する評価を、後者は「ダンサー」に対する評価を表すと解釈されやすい(ダンスの上手な/容姿の美しいダンサー)。本発表ではgut, schönが評価を表す対象に関して、Vendler (1968) を踏まえて「個体」「事象」「命題」に分けて整理する。特に事象や命題に着目し、コーパスのデータをもとに、gut, schönと評価対象との意味的なかかわり方の相違について考察する。また、この意味的な違いが両形容詞の統語的な分布の違いと相関している可能性を示す。

 

 


研究発表3
発表者:細川 裕史 氏(阪南大学)
題目:最初期および現代における大衆紙の言語
-そのマクロおよびミクロ構造に関する社会語用論的考察-

[発表要旨]

  19世紀にドイツ語圏の幅広い社会層にまで広まった新聞の地位は、20世紀末に普及したインターネット、とりわけSNSの普及によって脅かされている。そのような時代において、自らもオンライン化した新聞では、SNSの文章に慣れ親しんだ読書層にむけてどのような言語が用いられているのだろうか? 本発表の目的は、代表的な大衆紙である『ビルト』のオンライン版を対象として、その一端を明らかにすることである。その際、20世紀における『ビルト』だけでなく最初期の大衆紙『ライプツィヒ絵入り新聞』とも比較し、それぞれの読者層の嗜好や社会的背景の違いと関連付けつつ、マクロ構造(紙面構成)とミクロ構造(統語構造)の両面から考察する。


質疑応答
司会者:中西 志門 氏(発表1)
吉村 淳一 氏(発表2・3)

第110回例会(対面開催)

日時:2023年9月2日(土)14:00 ~ 16:00
場所:京都大学楽友会館
<<内容>>

特別講演会

講師:Damaris Nübling 教授(ヨハネス・グーテンベルク大学マインツ)
講演タイトル:Was hat Genus mit Geschlecht zu tun? Befunde aus dem Deutschen und
einigen Dialekten

[講演要旨]

 Eines des umstrittensten Themen im öffentlichen Diskurs zum genderbewussten Sprechen ist die Frage nach dem Zusammenhang zwischen der (sprachinternen) grammatischen Kategorie Genus und
dem (sprachexternen) Geschlecht einer Person oder eines Tieres. Während Laien jegliche Verbindung zwischen Genus und Geschlecht abstreiten, gibt es aus der Linguistik ganz anderes zu berichten. Hier trifft man die wichtige Unterscheidung zwischen a) grammatischem Genus, b) Sexus als dem biologischen und c) Gender als dem sozialen Geschlecht. Nur diese Trias vermag die Effekte der Genuszuweisung von Personenbezeichnungen zu erklären, wobei die Devianzen (mismatches) von besonderem Interesse sind, also Männerbezeichnungen im Femininum (die Tunte) und Frauenbezeichnungen im Maskulinum (der Vamp) und vor allem im Neutrum (das Weib, Mädchen, Groupie). Dabei betrachten wir einerseits die Effekte des ‚falschen‘ Genus bei Appellativen, aber auch bei Eigennamen, und zwar am Beispiel von das Merkel und am Beispiel von bestimmen Dialekten, in denen Mädchen und Frauen neutrale Namen tragen, die z.B. das Tanja, das Ingrid. Diese Namen sind nicht diminuiert, das Neutrum entfaltet dabei wichtige pragmatische Effekte (Beziehung zwischen Sprecher/in und der bezeichneten Frau) und steht in Opposition zum Femininum. Mit diesen bemerkenswerten Sonderentwicklungen hat sich Genus in diesen Dialekten wieder zu einer wählbaren grammatischen Vollkategorie mit fester Funktion de- bzw. regrammatikalisiert. Sollte noch Zeit sein, berichte ich über eine aktuelle Korpusstudie, die den Geltungsbereich des sog. Genus-Sexus-Prinzips bei den Tieren untersucht. Hier stellt sich heraus, dass sogar das Genus von Tierbezeichnungen (der Elefant, die Giraffe) Auswirkungen auf deren Geschlechtswahrnehmung (durch den Menschen) hat. Um es zu konkretisieren: Eine Giraffe (f.) kann ohne weiteres trächtig sein oder Junge säugen, während ein Elefant (m.) in diesem Fall zu einem Femininum wie Elefantin oder Elefantenkuh umgeformt wird, damit das Genus mit dem weiblichen Geschlecht kongruiert. Dies wirft neues Licht auf die Funktionsuntüchtigkeit des generischen Maskulinums.


質疑応答
司会者:吉村 淳一 氏

第109回例会(対面開催)

日時:2023年5月20日(土)13:30 ~ 17:30
場所:京都外国語大学4号館5階452教室
<<内容>>

研究発表会

研究発表1
発表者:高橋 美穂 氏(三重大学)
題目:非対格性・使役性・アスペクト-移動動詞を例に-

[発表要旨]

 非対格性を区別する文法現象は「非対格性テスト」と呼ばれているが、一連のテストでミスマッチを起こす例として挙げられるのが移動動詞である。本発表では、Kaufmann (1995)
における非対格性テストに関する議論を概観し、移動動詞にあてはめて検証する。また、非対格動詞のふるまいを見せる条件とされることがある「外的原因」(cf. Levin/Rappaport Hovav 1992)が、移動動詞においてどのように再現されうるのか、自由与格で可能となる「非意図的使役主」(cf. Schäfer 2008)解釈を例に考察する。これらを通し、非対格性ならびに使役性とアスペクトの連関を示す。


研究発表2
発表者:納谷 昌宏 氏(元愛知教育大学)
題目:„hinab“ と „herab“ の非対称性について

[発表要旨]

  方向副詞である hin は「話者から遠ざかる」、her は「話者に近づく」という意味を有している。そしてこれらの副詞が „ab“ と結合した „hinab“ は「話者から遠ざかって下りていく」、„herab“ は「話者に近づいて下りてくる」という意味を有する。ところがたとえば、 Er musste Tablette herabschlucken.(彼は錠剤を吞み込まねばならなかった)のように、「話者に近づく」意味を有さない場合にも „herab“ が用いられることがある。こうした用法は „hinab“ にはない。そこで本発表では、コーパス分析とインフォルマントテストにより、副詞 „hinab“ と „herab“ の基本的意義と派生義を明らかにし、その非対称性を明らかにしたいと思う。そして何故こうした現象が起こるのかを仮説という形で提示したいと考えている。人間の持つ認知機能との関係が提示できれば幸いである。


質疑応答
司会者:中村 直子 氏


定例総会

第108回例会(対面開催)

日時:2022年12月10日(土)13:30 ~ 17:00

場所:京都外国語大学8号館4階843教室

<<内容>>

研究発表会

研究発表1

発表者:下村 恭太 氏(京都大学大学院生)
題目:ヴィラモヴィアン語における接続詞と人称代名詞の使用傾向について:指示対象の有生性および人称代名詞の性・数との関連性

[発表要旨]

  本発表では、ポーランド南部で話されているドイツ語変種のヴィラモヴィアン語(ヴィラモヴィアン 語:Wymysiöeryś, ドイツ語:Wilmesaurisch)を対象とし、強勢のない人称代名詞が接続詞に融合する現象の生起条件の解明を試みる。 強勢のない人称代名詞は通常、強勢を持つとされる動詞などの内容語に融合する。しかし、ヴィラモヴィアン語では強勢を持たないとされる機能語の接続詞に融合する。さらに、人称代名詞が接続詞の直後に生起したとしても、必ず融合するわけではない。 以上のことから、融合現象の用例数が多く見られたケースに着目し、その生起条件を考察する。


研究発表2

発表者:片岡 宜行 氏(福岡大学)
題目:ドイツ語教育における構文の扱い

[発表要旨]

 
ドイツ語学習において基本的な構文を学ぶことは必須であると考えられるが、例えばドゥーデン文法(2016年)のリストに挙げられている34種類の構文には、出現頻度が比較的低いものや、所有の与格構文のような派生的なものも含まれており、このリストをそのままの形で学習者に提示するのは適切ではないと考えられる。本発表では、ドゥーデン文法において所有の与格が「目的語」とみなされ、所有の与格を基本的な構成要素として含む構文が他の構文と対等なものとして位置づけられるに至った経緯を検証し、その妥当性について検討する。また、そのほかのタイプも含めて、どのような形で構文をドイツ語教育の場で提示するべきかについて考察したい。


研究発表3
小川 敦 氏(大阪大学)
題目:ルクセンブルクにおける近年の言語をめぐる議論 -「国語」と早期複言語教育から

[発表要旨]

 
人口の約半数が外国籍であることからも示唆されるように、ルクセンブルクでは移民の社会統合、特に言語的な統合が課題となって久しい。以前より政治的には統合の言語としてルクセンブルク語が重視され、その上でドイツ語、フランス語を身につける教育政策がとられてきたが、2013年に発足した自由主義的な方針をとる現政権は学校の多様化を推進し、従来の画一的な政策にこだわらない姿勢を見せている。一方で、2017年に成立した「ルクセンブルク語振興戦略」に見られるように、国語であるルクセンブルク語を盛り上げようという動きも見られる。本発表では、これらの動きを考慮しながら、2017年に始まったルクセンブルク語とフランス語の早期複言語教育に関する議論に焦点を当て、多様化するルクセンブルク社会と言語政策を考えたい。


質疑応答
司会者:中村 直子 氏


臨時総会

第107回例会(対面開催)

日時:2022年9月3日(土)14:00 ~ 16:30

場所:立命館大学衣笠キャンパス 平井嘉一朗記念図書館カンファレンスホール

<<内容>>

シンポジウム

「コロナ禍におけるドイツ語授業の実践とアフアーコロナに向けた学び」

[要旨]

 新型コロナ感染症の発生と広がりのため、2020年度以降の大学教育は大きな影響を受けた。とりわけ、2020年度は完全に手探り状態のまま、前例のない形での授業運営がなされた。そうした状況に直面し、立命館大学では共通のドイツ語授業動画作成および配信という対応からスタートした。その後、各担当教員がオンライン(あるいはハイブリッド)という特性を活用しつつ、自らの授業運営の工夫を重ねていった。例えば、オンラインでのグループワークを中心に授業を構築することで学生同士のつながりを生み出したり、個別にきめ細やかな指導をすることで学習実感を与えたりといったさまざまな形で授業運営を行なっていった。本シンポジウムでは、立命館大学でのこうした取り組みを振り返りつつ、そこから得たドイツ語教員としての学び、そしてアフターコロナに向けての学びについて考えたい。


報告1
報告者:田原 憲和 氏(立命館大学)
題目:大学としての動き、ドイツ語部会としての動き


報告2
報告者:林嵜 伸二 氏(立命館大学)
題目:ドイツ語のオンライン授業
―ハイブリッド形式の可能性と今後の課題―


報告3
報告者:武井 佑介 氏(立命館大学)
題目:学習者を授業の中心としたオンライン授業の実践と発展
―学習者同士が関わり合いを持てる環境づくりを目指して―


自由討論会

司会者:羽根田 知子 氏

第106回例会(WEB開催)

日時:2022年5月21日(土)14:00 ~ 15:40
(Zoom会議)

<<内容>>

研究発表会

研究発表1
発表者:発表者:石部 尚登 氏(日本大学)
題目:ベルギー・ドイツ語話者共同体の移民統合政策と言語要件について

[発表要旨]

 
ベルギーの連邦構成体の一つであるドイツ語話者共同体(近年は「東ベルギー」を自称)は、ベルギーにあって言語紛争とは無縁の地域とされ、共同体設立の後も長らく独自の言語政策は存在しなかった。しかし、2017年12月11日、「統合と多様性の中の共生に関する共同体法」が可決された。それは新規移民にドイツ語講座の受講を義務付けるもので、移民統合政策における言語要件、いわば共同体「初」の言語政策と言えるものであった。本発表では、ドイツや西欧各国における同様の政策の一般的動向を確認し、さらにベルギーの他の共同体―フラーンデレン共同体とフランス語共同体―での変遷をみることで、この時期にドイツ語話者共同体で言語政策が導入された背景を考察する。


研究発表2
発表者:西出 佳代 氏(金沢大学)
題目:ルクセンブルク語における義務モダリティと否定

*本発表はご本人の都合により中止となりました。


要旨説明/質疑応答(Zoom会議)
司会者:河崎 靖 氏


定例総会

第105回例会(WEB開催)

日時:2021年12月18日(土)13:30 ~ 17:30
(Zoom会議)

<<内容>>

研究発表会

研究発表1
発表者:発表者:井上 瞬 氏(京都大学大学院生)
題目:エリザベス朝演劇における比較・除外表現の代名詞の格について

[発表要旨]

 Visser (1970)によると、規範的には主格の代名詞が求められる場合でも、17世紀後半以降as, thanの後で目的格が用いられる例が見られるようになった。この他butなどを用いた除外表現においても同様の例が報告されている。しかしこれまで初期近代英語期(1500-1700)に関して、こうした環境での代名詞の使用について、網羅的な調査は行われて来なかった。本発表は、エリザベス朝演劇のとりわけShakespeareら四名の劇作家の全戯曲の最初期の刊本から構築した独自のコーパスを対象に調査し、考察を行うこととしたい。


研究発表2
発表者:上田 直輝 氏(大阪大学大学院生)
題目:EuroComGerm の日本の大学教育におけるポテンシャルと意義

[発表要旨]

 外国語学習法であるEuroComGermは、既にもっているドイツ語・英語の言語知識を活用することで複数のゲルマン語(オランダ語、スカンディナヴィア諸語など)の読解能力を短期間で同時に習得することを目標としている。この学習法において学習者はsieben Siebeと呼ばれる大きく7領域に区分されるストラテジーを学び、これらを適用しながらゲルマン諸語の文法や語彙をドイツ語・英語の言語知識と照応させることでゲルマン諸語の文章を解読する技能を培う。本発表ではEuroComGermの理念や具体的な学習法を解説した上で日本人ドイツ語既習者に対する適用可能性についての理論的考察を述べるとともに、この学習法を日本の大学教育に組み込むことができた場合に期待できる意義を検討する。


研究発表3
発表者:薦田 奈美 氏(三重大学)
題目:授業内における共同体の役割 -対面授業とオンライン授業

[発表要旨]

 本発表では、大学で行われている初修外国語としてのドイツ語授業を対象とし、従来の対面授業と、コロナ禍により導入が加速したオンライン授業を比較し、受講者にとって有益な、あるいは有益であると感じられるのはどのような授業実施方法であるのかを考える。特に2020年度以降、「オンライン授業をいかに効率的に行うか」という観点での報告や論文は多く見られたが、オンライン授業と対面授業のどのような点が異なり、その違いが学生にどのように作用しているかという点に着目した研究は未だ少ないと思われる。授業を構成する「共同体」としての学生と教員のコミュニケーションを軸として、各授業が持つ特性を明らかにすることを目指す。


要旨説明/質疑応答(Zoom会議)
司会者:大喜 祐太 氏


臨時総会

第104回例会(WEB開催)

日時:2021年9月18日(土)13:30 ~ 17:00
(Zoom会議)

<<内容>>

研究発表会

研究発表1
発表者:芹澤 円 氏(神戸大学)
題目:1800年前後のドイツにおけるモード雑誌の言語的特徴
―「テクスト化の戦略」と語彙の観点から

[発表要旨]

 ドイツでは文化の商業化のなか18世紀末に、モード雑誌が登場する。Journal des Luxus und der Mode(1786~1827年、以下Journal)を同時代の新聞と比較すると、従属文の頻度に有意差は認められないが、新聞ではeinige Erläuterungen über die […] geschlossene Conventionのように動作名詞による名詞句が顕著であるのに対して、Journalではum den Kopf, unter dem Federbusche in eine große Schleife gebundenのようにモード品の由来、形状、品質等を言い表す前置詞句が多いことがわかる。Eroms(2008)の「テクスト化の戦略」に準拠すると、この違いは、新聞が出来事を時間軸で動画的に描き出すErzählenが優勢なテクストであるのに対して、Journalは対象物を空間軸で静止画的に描き出すBeschreibenが優勢なテクストであることを示唆している。さらにまたJournalは使用語彙をうまく制御し、「推奨する」といった指令型の動詞や、比較級・最上級表現、高価値語などを使用して、書き手にしか直接体験できない質感を魅力的に伝え、モード品を宣伝し読者に購買させるべく発信している。


研究発表2
発表者:木戸 紗織 氏(東北医科薬科大学)
題目:新たなルクセンブルク語話者?―難民の言語学習と三言語併用の今後―

[発表要旨]

 ルクセンブルクでは年々外国人居住者の数が増加し、それに伴ってルクセンブルク語の位置づけも変化してきた。もともとルクセンブルク人同士の日常的な会話で用いられていたこの言語は、国内のフランス語偏重を是正し三言語併用というルクセンブルクのアイデンティティを維持するために、しだいに「国語」「母語」として象徴的な役割を負うようになった。さらに今日では難民がルクセンブルク社会に定着するための言語、すなわち統合の言語(Integrationssprache)という役割も帯びつつある。本発表ではこのIntegrationsspracheをキーワードに、近年のルクセンブルク語およびルクセンブルク社会の変化を追ってみたい。


研究発表3
発表者:島 憲男 氏(京都産業大学)
題目:宮沢賢治のドイツ語訳テキストに生起するドイツ語構文の機能的役割:結果構文と同族目的語構文を中心に

[発表要旨]

 本発表では、事態を引き起こす基底動詞と結果状態を表す結果句の相互作用によって最終結果状態の名詞句が確定するドイツ語の結果構文と、自動詞を基底としつつも文中に同語源である対格名詞の生起を許す同族目的語構文を主に取り上げ、当該構文がドイツ語のテキストの中でどの程度実際に使用され、どのような構文的な役割を果たしているかを、ドイツ語に翻訳された宮沢賢治の複数の作品を用いて調査した結果を報告する。これまで発表者は、主にドイツ語を原典とするテキストや、英語の原典からドイツ語訳されたテキストを使って当該構文の構文的機能を分析することを試みてきたが、日本語から翻訳されたドイツ語テキストの検討を通じて個別の研究成果が検証されるだけでなく、新たな発展の可能性を提供してくれたことを示したい。さらに、可能であれば、発表者が現在取り組んでいる「構文間の文法的ネットワーク」の中で両構文をそれぞれどのように位置付けているのか、その最新の考えも合わせて提示したいと考えている。


要旨説明/質疑応答(Zoom会議)

司会者:岸川 良蔵 氏

第103回例会(WEB開催)

日時:2021年5月22日(土)13:30 ~ 17:30
(Zoom会議)

<<内容>>

研究発表会

研究発表1
発表者:佐分利 啓和 氏(関西学院大学大学院生)
題目:感情表現としてのmir / dir

[発表要旨]

 ドイツ語の自由与格のうち関心の与格は、口語でしか用いられない、一人称ないし二人称でしか出現しない、前域に配置できない、要求文と感嘆文にのみ現れるなどユニークな特徴を持つ。命題外、すなわちモダリティに関わる表現であることも特徴的であり、心態詞と類似した機能を持つことが知られている。本発表では、関心の与格mir/dirが、話し手の態度や感情などを表す「表出的意味」を持つことに注目し、要求・命令・驚き・非難などの意味があるとされる関心の与格の機能を、感情的側面から統一的に把握しようと試みる。宮下 (2020) が心態詞dennの機能に関する検討で援用したRussell & Barrett (1999) による感情円環モデルを導入することで、関心の与格と感情の関わりを明らかにしたい。


研究発表2
発表者:佐藤 和弘 氏(龍谷大学)
題目:エネルギー政策とドイツメディア―原子力推進派と原子力反対派が用いる言語表現―

[発表要旨]

 米国の核物理学者A. M. Weinbergは、人類が原子力エネルギーを手に入れたことに対し”Wir haben einen faustischen Pakt geschlossen.”と表現した。20世紀はこのHollenfeuerをめぐりPro-AtomとAnti-Atomの間で修辞的表現を駆使し賛否両論が飛び交った。21世紀に入りKlimawandel、Klimakriseにより脱炭素化社会がエネルギー政策の中心課題に移ると、世代交代と共に例えばUmweltschutzer、Bruckentechnologieにも新たな現象、意味解釈が生まれている。また、Okoverbrecher、Klimaverbrecherなど地球を、人類の生存を脅かす複合語が次々と登場してくる。本発表においてはドイツメディアで取り上げられたエネルギー政策、とりわけ原子力政策において、原子力推進派と原子力反対派が巧みに用いる言語表現を、婉曲語法(Euphemismus)、ネオロジズム(Neologismus)に注目し、エコ言語学的観点から言語分析を行う。


要旨説明/質疑応答(Zoom会議)
司会者:薦田 奈美 氏


定例総会