例会

第83回例会

日時:2014年5月31日(土)13:30 ~ 17:30

場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

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研究発表会

研究発表1
発表者:薦田 奈美 氏 (同志社大学非常勤)
題目:借用語の外来性-Fremdheit zwischen Lehnwort und Fremdwort-17世紀以降のフランス語からドイツ語への借用語を例として

[発表要旨]

語借用は、音韻論的・形態論的・書記素論的な側面において、どの程度、自言語に融合(integrieren)しているかに基づいて、外来語と借用語に区別される。古い借用であれば基本的には融合の程度は高くなるが、時間の経過だけがその基準とはならない(Keks-Kekse/Tempus-Tempora)。故に、どの程度融合すれば借用語として扱われるべきかを決定する基準が求められる。本発表では、Volland(1986)による17世紀以降のフランス語からのドイツ語への借用語の考察を基に、音・文字・形態のTransferenzとIntegrationの区分に、新たに意味的な区別(Semantische Integration)を加えることで、外来語と借用語の線引きを行う基準を明確化することを目的とする。具体的な方法として、当該語彙の借用後の意味変化について、Blank(2001)の挙げている意味変化タイプとその基盤となる連想関係を用いて考察を行うものである。


第32回言語学リレー講義
発表者:新田 春夫 氏 (武蔵大学)
題目:新高ドイツ語の成立過程に関する近年の研究動向

[要旨]

Werner BeschはGrimmelshausens?Simplicissimus‘ ? Das zweite Leben eines Klassikers. 2012において、東中部ドイツ語が東上部ドイツなどの影響も受けつつ、16世紀中葉には中部ドイツに普及し、17世紀中葉には北ドイツにまで浸透し、18世紀中葉には上部ドイツをも席巻することによって、全ドイツに広まり、新高ドイツ語文章語として成立したという、成立の時期的段階を提示した。この発表では、主にBesch2003にもとづいて、これまでの新高ドイツ語の成立過程に関する理論と彼のAusgleichstheorieを振り返り、次いで、近年の研究動向を紹介し、研究の問題点と課題を検討する。最後に、発表者による、方言区分、宗派などの視点にもとづいて選んだ、いくつかの資料の分析を例示する。


定例総会

第82回例会

日時:2013年12月14日(土)13:30 ~ 17:30

場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

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研究発表会

研究発表1
発表者:安田 麗 氏 (大阪大学)
題目:ドイツ語音声における母音/i/ /u/ /y/の生成について

[発表要旨]

外国語の学習において,目標言語を母語の様に完璧に習得することは難しい。特に発音に関しては,学習者の母語の音声的知識や音韻体系が干渉し,目標言語の発音習得を困難にしたり,外国語訛りとして表れたりすると言われている。本発表では、日本人ドイツ語学習者のドイツ語音声を対象とし,母音/i/ /u/ /y/がどのように発音されているのかを実験音声学的手法を用いて観察した。日本人の発音の特徴やドイツ語を発音する際に特に注意すべき点を明らかにすることで,今後の効率的なドイツ語音声指導への応用について考えたい。


研究発表2
発表者:大喜 祐太 氏 (京都大学院生)
題目:スイス式標準ドイツ語における非人称存在表現の考察 ―es hat と es gibt の用法比較から―

[発表要旨]

スイス式標準ドイツ語 (Schweizerhochdeutsch)には、標準ドイツ語 (Hochdeutsch) で一般的に使用されている geben を用いた es gibt 非人称存在表現だけでなく、 haben を用いた es hat非人称存在表現がある。本研究の目的は、スイスの標準変種であるスイス式標準ドイツ語 (Schweizerhochdeutsch) における、非人称存在表現の用法 (es hat vs. es gibt)を明らかにすることである。本発表では、まずコーパスの用例を抽出し、各表現の副詞的付加語・実主語の性質などについて検討する。つづいて、スイスドイツ語における es gibt と es hat の使い分けを、アンケート調査を中心に考察する。最後に、スイスドイツ語と周辺言語 (標準ドイツ語もしくはフランス語など) の用例と比較し議論してみたい。


研究発表3
発表者:熊坂 亮 氏 (北海学園大学)
題目:スイスドイツ語の動詞群について

[発表要旨]

スイスドイツ語のほとんどの方言において動詞群は、支配される下位の動詞が不定詞であるか過去分詞であるかによって異なる語順をとる。すなわち、支配される動詞が不定詞であれば、それを支配する上位の動詞の後(右側)に置かれるが(チューリヒ方言:das er schweer mues1 schaffe2/標準ドイツ語:dass er schwer arbeiten2 muss1)、過去分詞であれば、上位の動詞の前(左側)に置かれる(チューリヒ方言:das er schweer gschafft2 hat1/標準ドイツ語:dass er schwer gearbeitet2 hat1)。本発表では、スイスドイツ語の動詞群の構造的特徴について共時的および通時的観点から概説するとともに、上述の差異の要因の一つとしての、過去分詞の形容詞的性格に言及する。

第81回例会

日時:2013年9月21日(土)13:30 ~ 17:30

場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)

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研究発表会

研究発表1
発表者:金子 哲太 氏 (関西大学非常勤)
題目:現在完了が用いられる環境について ― 古高ドイツ語、中高ドイツ語の例から ―

[発表要旨]

 発表者は、数年来、現在完了形が古高ドイツ語、中高ドイツ語の作品においてどのような環境で用いられているのかを調査することによって、この時制形式の意味的発展を探ってきた。そしてこの形式が現在時制性を残したまま発展し、一方では時間・アスペクト的表示を生み出してきたが、他方でまた語用論的にも一定の慣習化が起きていたのではないかと考えている。それは、コンテクストが両時代を通じて現在的環境であるのが基本であるということと、中高ドイツ語において話法的環境での使用が増加するという分析結果にもとづくものである。 本発表では、過去的環境に現われる現在完了の例を考察対象とし、これまで個別に扱ってきた「人称性」「時間性」「アスペクト性」、また「話法性」や文接続の観点から、より一般的と考えられる出現パターンとの違いを分析する。その都度の文意味を複数の角度から整理することで、拡充期にあった現在完了の意味用法について改めて考察したい。


研究発表2
発表者:吉満 たか子 氏 (広島大学)
題目:外国語学習における学習ストラテジー ― 学生達は授業外でどのように学んでいるのか?―

[発表要旨]

 近年、学習者の「自律」や「自学」が教育の世界ではキーワードとなっており、学習指導要領や大学のビジョンにもこれらが盛り込まれている。しかし、実際の授業で学生を観察すると、「勉強の方法が間違っているのでは?」と思うこともしばしばで、「自学」を叫ぶだけではなく、その方法を教員が示す必要性を感じることもある。 本発表では、まず外国語授業における「自律した学習者」とはどのような学習者なのかということを確認し、広島大学で行ったアンケート調査の結果から、学生が授業外で外国語をどのような方法で学んでいるのか探る。それらを踏まえた上で、学生が効率よく外国語を学ぶために、教員は何ができるのかを考えたい。


研究発表3
発表者:神竹 道士 氏 (大阪市立大学)
題目:ドイツ語<r>音の表記方法と規範意識の変化

[発表要旨]

ドイツ語の音には、母音化現象も含めてさまざまな異音が存在することは周知の如くである。ドイツ語発音辞典においても、Th.Siebsの舞台発音にみる理想規範(Idealnorm)からDuden第6巻の発音辞典における使用規範(Gebrauchsnorm)へと規範の概念規定が移り変わると同時に、この音の表記方法も大きく変わってきた。独和辞典の表記方法においても、IPA(国際音声字母)を用いた統一的表記から、発音記号とカナ表記の併記あるいはカナ表記のみによる記述へと推移している。音と辞書の表記方法からみえるドイツ語標準発音の規範意識の変化について、特に外国語としてのドイツ語を教える者の立場から論じてみたい。

 

第80回例会

日時:2013年6月8日(土)13:30 ~ 17:00
場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)
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研究発表会

研究発表1
発表者:鈴木 智 氏 (立命館大学)
題目:グローバルな人材とは?―ドイツ語授業における「ランデスクンデ学習」とその可能性

[発表要旨]

 グローバル人材育成推進が議論される昨今、「使える英語」にばかり論点が置かれがちであるが、異なる文化的背景を尊重し理解に努める姿勢も不可欠である。語学力の習得だけでは、世界に通用する人材の育成とはいいがたい。これはドイツ語教育の現場にも当てはまる。
従来ドイツ語教育には「ランデスクンデ」という確立した領域があり、言語的知識の教示にとどまらない授業を重要視している。しかし生活や文化を扱った授業は学習者の興味を引きやすい一方で、ステレオタイプが再生産される危険もある。そこで本発表では、学習者自身が先入観やステレオタイプについて考え、また物事を別の視点から捉えることにより、「多様性への寛容さ」の育成を目指す授業の試みを紹介したい。学習者が持つドイツのイメージと学習歴の関係についても言及する。


研究発表2
発表者:片岡 宜行 氏 (福岡大学)
題目:動詞不変化詞の付加による文の構造と意味の変化 ― 移動動詞を例に ―

[発表要旨]

動詞不変化詞(分離前綴り)は文成分の出現条件に関わり、文の構造と意味を規定する働きを持つ。不変化詞 hin を伴う移動動詞(hingehen, hinfahrenなど)が用いられた文では、空間規定が含まれず、物理的な移動というよりも移動を伴う何らかの行為が表されている例がしばしば見られる。一方、hinauf や hinausのような二重不変化詞が動詞に付加された文では、空間規定が含まれ(もしくは想定され)、物理的な移動が表されている例が多い。

( … ), und wir hatten Blumen gekauft und waren hingefahren. (H.Böll)
Er nickte und ging die Treppe hinauf. (同上)

本発表では、hin, hinauf, auf などのように相互に関連する動詞不変化詞の比較対照を中心に、動詞不変化詞と文の構造・意味の関係について考察したい。


第31回言語学リレー講義
発表者:家入 葉子 氏 (京都大学)
題目:英語の否定構文研究とその応用

[発表要旨]

英語の否定構文の史的発達は、その変化が大きいことで知られている。古英語期(~1100年頃まで)には動詞の前にneを付加することで否定構文を作ったが、古英語の終わりごろから新たな否定の副詞notが導入され、動詞をneとnotではさむ形式が発達した。その後、neが脱落し、さらに助動詞doが導入されて今日に至っている。本発表では、構文の変化が著しい中英語期(1100年頃~1500年頃)から初期近代英語期(1500年頃~1700年頃)を中心に、まず否定構文の発達を概観する。さらに、否定構文の詳細を分析することで文献資料の性質を明らかにすることができる点にも議論を進めたい。否定構文の発達は文体、地域など、さまざまな要因と連動している。否定構文を一つの指標とすることで、文献とその背景との関連性を明らかにすることが可能となろう。


定例総会

第79回例会

日時:2012年12月1日(土)14:00 ~ 17:00
場所:京都大学 楽友会館(1階会議室)
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研究発表会

研究発表1
発表者:島 憲男 氏 (京都産業大学)
題目:構文の拡張と動詞の「他動性・自動性」:構文ネットワークの観点から

[発表要旨]

 ドイツ語の結果構文は、自動詞・他動詞の両領域に広がる構文と考えられるが、その用例が典型的なタイプから非典型的なタイプへと拡張するのに合わせて、構文の基底動詞や目的語は意味的・統語的性質を様々に変質させていく。これは、構文中に生起する基底動詞の観点からは他動詞から自動詞に構文を拡張させていると解釈でき、構文中の目的語からは基底動詞の直接的な意味制約から離脱して結果状態の描写を受ける主題としてより前景化されていくことを意味する。 本発表では、ドイツ語文法に存在する他の諸構文(中間構文、同族目的語構文、結果目的語)と結果構文を比較することで、二律背反的な「自動性・他動性」を超えてその構文的連続性をとらえ、目的語の担う役割を生み出すメカニズムを考察してみたい。


研究発表2
発表者:清水 誠 氏 (北海道大学)
題目:ドイツ語とゲルマン語の枠構造をめぐって

[発表要旨]

枠構造はドイツ語の文構造を特徴づける現象だが、ドイツ語の特徴とはいいがたい。枠構造は大多数のゲルマン語に共通し、それを欠くのは英語などごく少数にとどまる。ドイツ語の枠構造には独自の特徴があり、ドイツ語にはない特徴も他のゲルマン語には存在する。本発表では、ゲルマン諸語の例をもとに左枠の補文標識と右枠の動詞群について考察し、枠構造の成立と解消の要因にも言及する。補文標識の一致、補文標識の接語化と脱落、定形補文標識と不定形補文標識、zu-不定詞の省略、VO言語と枠構造、動詞群の統語論的・形態論的・意味論的配列、枠構造の成立と文モダリティー、枠構造の解消と連鎖動詞融合など聞き慣れない概念についても紹介したい。


招待講演

発表者:Armin Burkhardt 氏 (マグデブルク大学)
題目:”Spielt Deutschland gegen den Abstieg?” Sportmetaphern in der politischen Sprache

第78回例会

日時:2012年9月29日(土)13:30 ~ 17:30
場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)
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研究発表会

研究発表1
発表者:西出 佳代 氏 (北海道大学大学院生)
題目:ルクセンブルク語における子音と音節構造

[発表要旨]

ルクセンブルク語は、1984年言語法によりドイツ語の一方言(西モーゼルフランケン方言)からルクセンブルク大公国の国語へと昇格した拡充言語である。同国家の国民アイデンティティを象徴するこの言語は、社会言語学的、すなわち言語外的な領域で関心を集めることが多い。一方で、その言語内的な特徴に関する研究はルクセンブルク本国でも十分に進められているとは言い難く、言語体系の記述を行った専門的な文献としては1950年代のものを参照する以外にない。しかし、言語として独立することで標準化が進み、外国人に対するルクセンブルク語教育の需要も高まる現在、再度体系記述を行うことは不可欠である。本発表は、その試みの一つとして音韻体系の中から子音と音節構造を取り上げ、記述することを目的とする。主に標準ドイツ語との比較の中で、歯茎・硬口蓋摩擦音/?/, /?/ や、/?/, /?/ の異音などに着目しながら音素の記述を行い、音節構造の特徴から、語末音硬化の問題や、あいまい母音や歯茎閉鎖音 /t/
の音挿入現象に言及し、ルクセンブルク語音韻の特徴の一端を示したい。


研究発表2
発表者:阿部 美規 氏 (富山大学)
題目:ドイツ語の映画字幕について

[発表要旨]

外国の映画やテレビ番組を上演・放送する際、従来専ら吹き替え(Synchronisation)が用いられてきたドイツにおいても、特に近年DVDが普及して以降、字幕(Untertitel)が積極的に利用されている。2009年にはEUがその行動計画に字幕を用いた外国語学習の推進を盛り込むまでになり、字幕は今後もますますその使用範囲を広げていくことが予想される。このような動向に並行して、翻訳研究においてもこれまであまり注目されることのなかった字幕が、とりわけ視聴覚翻訳(Audiovisuelles Ubersetzen)の重要な一分野として認識され、ドイツにおいてもそれに関する調査・研究が進められつつある。本発表ではそれらの調査・研究の成果を紹介した上で、邦画に付されたドイツ語字幕に関して発表者が行った考察の結果を報告する。字幕翻訳にはさまざまな制約が伴うが、その制約の中で生まれたドイツ語映画字幕がどのような特徴をもつのか、その一端を明らかにしたい。


第30回言語学リレー講義
発表者:杉谷 眞佐子 氏 (関西大学)
題目:「外国語としてのドイツ語」教育と「複数言語教育」の促進

第77回例会

日時:2012年5月26日(土)13:30 ~ 17:30

場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

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研究発表会

研究発表1
発表者:田中 翔太 氏 (学習院大学大学院生)
題目:ドイツのTVメディアにおける『トルコ系移民のドイツ語』―『役割語』という観点から―

[発表要旨]

ドイツでは現在、移民背景を持つ者が多く生活している。そのなかでも1960年代からドイツへ来たトルコ系移民は、ドイツの外国人人口でも群を抜き、最も多い割合を占めている。トルコ系移民の第二、第三世代が話すドイツ語は、トルコ系移民の出自を持つ文学者Feridun Zaimogluが出版した『カナーケの言葉:社会の周縁の24の雑音』 (1995)によりドイツ社会で注目を集めた。それを転換期として、元々ドイツ人から「ブロークンなドイツ語」としてネガティブな評価を受けてきた「トルコ系移民のドイツ語」が、coolであるなどと、ポジティブな評価を持って用いられるようになった。このようなドイツ社会からの評価の変化要因のひとつとして考えられるのが、2000年代初め頃からドイツのTVメディアにおいて需要が増加した、コメディ番組である。今発表では移民をテーマとしたコメディ番組Ethno-Comedyに注目し、伝える側と受け取る側のことばを観察する。その際、ドイツ社会において移民に課せられた言語的役割について、金水(2003)による「役割語」という観点から考察していく。


研究発表2
発表者:岩崎 克己 氏 (広島大学)
題目:日本のDaFにおけるドイツ語基礎語彙へのアプローチ

[発表要旨]

基礎語彙選定の代表的な手法としては、頻度を選択基準とするコーパス言語学的なアプローチやコミュニケーション場面を想定し、そこでの重要性を選択基準とするコミュニカティブなアプローチなどがある。しかし、日本のドイツ語教育において基礎語彙を考える際には、「大学や高専等の教養教育の枠組みにおいて、主に学生を対象として週1~2回、1年間程度実施される」という日本のドイツ語教育の置かれた特殊事情も考慮する必要がある。それゆえ本発表では、上述の2つのアプローチのそれぞれによってドイツ語圏で作られた代表的な語彙リストである、Tschirner (2008) およびGlaboniat u. a. (2005)の語彙リスト、および発表者らが広島大学において作成した「広大語彙リスト(基礎語彙850語+追加語彙350語)」の3つを取りあげ、日本のドイツ語教育の文脈を踏まえたコミュニカティブ・アプローチの観点から、上記の3つの語彙リストに含まれる単語の比較を、主に動詞・形容詞・名詞に焦点を当てつつ行い、それぞれの特徴として何が言えるかを具体的に考察する。本発表では、「アプローチの違いによって上位語にはどんな違いが見られるか」、「頻度順アプローチのみに依拠しようとするとどのような問題が生じるのか」、「日本のDaFの文脈を考慮するとはどういう事なのか」、「基礎語彙の範囲と学習順序はどう関連するのか」等の問いについても論じる。


定例総会

第76回例会

日時:2011年12月3日(土)13:30 ~ 17:30
場所:京都大学吉田南1号館1共31(3階)
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シンポジウム

「外国語学習のあらたな地平 ― 慶應義塾大学SFCドイツ語教材開発研究プロジェクトの取り組み ―」

報告者:
藁谷 郁美 氏(慶應義塾大学)
マルコ・ラインデル 氏 (慶應義塾大学)
白井 宏美 氏(慶應義塾大学)
太田 達也 氏(南山大学/慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問))
倉林 修一 氏(慶應義塾大学)
SFCドイツ語教材開発研究プロジェクトメンバー(慶應義塾大学学部生)

[シンポジウム要旨]

 本発表は、慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)ドイツ語教材開発研究プロジェクトによるICTを利用した外国語学習環境構築の取り組みのコンセプトおよび具体的な実践例とその評価について報告するものである。「学習」に対する考え方の転換は、現代の外国語教育にも大きな変化をもたらしている。すなわち、教師主導の教示主義的な教育観にかわり、学習者中心の社会構成主義的な学習観のパラダイムが出現して以来、教師や大学に課せられた役割は、単なる効率的な「授業」の運営という枠を越え、学習者を取り巻く「学習環境」の構築という範疇にまで拡大した。従来こうした学習環境のデザインや運営を担当するのはもっぱら教職員であったが、本プロジェクトでは、SFCで言語を学ぶ学習者が自らSFCにおける外国語学習環境構築に向けて、デジタル学習教材開発や学習支援システムの構築に携わっている。 このプロジェクト活動が核となり開発されてきた多様な教材作品には、これまでも多くの学習者・教員・研究員・他分野の研究室等が共同研究者として関わってきた。特に学習者間でおこなわれる協働学習が教材開発活動につながる部分は本プロジェクトの大きな特徴である。本発表では、教材開発だけではなく、実際の運用、評価までを担うこのプロジェクト活動とその機能を、研究と教育の両面から位置づける。さらに本プロジェクトから生まれた個別の学習教材作品を例に挙げ、それぞれの開発・運用・評価について説明する。 ますます多様化する外国語学習環境のありかたに対し、本プロジェクトによる学習環境構築の事例を通して、あらたな視点を提言したい。

ディスカッション

第75回例会

日時:2011年9月24日(土)13:30 ~ 17:30
場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)
<<内容>>

研究発表会

研究発表1
発表者:小川 敦 氏 (一橋大学研究員)
題目:ルクセンブルクにおける言語意識と1984年言語法

[発表要旨]

 ルクセンブルクにおいては、長年2つの言語意識がコインの表裏のように併存してきた。1つは母語ルクセンブルク語に対する単一言語性の意識、もう一つはドイツ語やフランス語を使いこなすという多言語性の意識である。1984年に成立した言語法は、ルクセンブルク語が事実上の公用語とされるなど、単一言語性の意識が際だった事象としてとらえることができる。本発表では、上記の2つの言語意識が1970年代および80年代にどのような形で対立し、言語法制定という結果に至ったのか、そしてそれまでは当然とされていた「三言語併存」がいかにして政治的な文脈に乗せられていったのかという言説について見ていきたい。また、今後の研究の展望として、言語法後の社会の変化や言語をめぐる環境の変化にも言及したい。

 


研究発表2
発表者:高須 万祐子 氏(京都大学大学院生)
題目:格体系の弱化に伴う低地ドイツ語の統語的特徴―低地ドイツ語の分析的特徴―

[発表要旨]

 本発表では、標準ドイツ語と対比することによって、格体系の弱化に伴い生じた低地ドイツ語の統語的特徴を考察し、低地ドイツ語が標準ドイツ語に比べてより分析的な言語であるということの証明を目標としている。
現代の低地ドイツ語には、格は主格と斜格の2つしか存在していない。まず、前置詞に注目し、標準ドイツ語において与格・対格支配のある前置詞が、低地ドイツ語においてはどのように表現されるのかなどを調査していく。このように、低地ドイツ語と標準ドイツ語の差異を明らかにし、低地ドイツ語が標準ドイツ語に比べてより分析的な言語であるか、という本発表で目標としている問いかけに対し、実証的に説明していく。

 


研究発表3
発表者:柴崎 隆 氏(金城学院大学)
題目:アルザス・ドイツ語(Elsàsser Ditsch)への招待―ミュルーズ・アルザス語の文法記述へのアプローチ―

[発表要旨]

 フランス東部の国境の地、アルザス地方の言語事情については、ドーデの作品『最後の授業』を巡る論争を契機として一時期注目を浴びたが、この地で話されるドイツ語系方言そのものに関しては、ほとんどその実態は知られてこなかった。今回の発表の趣旨は、現在では存亡の危機に晒されていると言われるアルザス・ドイツ語、中でもその中核を成す低地アレマン(=上部ライン・アレマン方言)圏にあり、ストラスブールに次ぐアルザス第二の都市ミュルーズのアルザス語に焦点を絞り、隣接する諸方言との比較も踏まえて、その言語的特徴を検証することにより、中高ドイツ宮廷詩人語の直系の後裔たるこの方言の文法記述へのアプロ―チを行う。

第74回例会

日時:2011年5月21日(土)13:30 ~ 17:30

場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

<<内容>>

研究発表会

研究発表1
発表者:芹澤 円 氏 (学習院大学大学院生)
題目:16世紀ドイツにおける印刷ビラの言語―受け手に合わせる、メディアに合わせる、メッセージに合わせる

[発表要旨]

 メディア論で議論されていることのひとつに、そもそもメディアには受け手の態度ないし行動を変化させるほどの強い影響力があるのか(強力効果論)、それともメディアは受け手の態度を補強するにすぎないのか(限定効果論)ということがある。ヒトラー演説なるものの「威力」について語られることがしばしばあるが、はたしてヒトラー演説には本当に威力があったのだろうか。ヒトラー演説が「完成」したのはいつで、その後時代とともに「進化」を遂げたのだろうか。このような素朴な疑問について言語学者が答えを出そうとしたとき、どのようなアプローチが可能であるのかについて、いくつかの具体的分析を示しながら考えてみる。そのなかで見えてくる言語学者の限界をどうすれば克服できるのかについても言及する。


研究発表2
発表者:高田 博行 氏(学習院大学)
題目:ヒトラー演説を分析してみる―言語学的アプローチの可能性と限界―

[発表要旨]

 メディア論で議論されていることのひとつに、そもそもメディアには受け手の態度ないし行動を変化させるほどの強い影響力があるのか(強力効果論)、それともメディアは受け手の態度を補強するにすぎないのか(限定効果論)ということがある。ヒトラー演説なるものの「威力」について語られることがしばしばあるが、はたしてヒトラー演説には本当に威力があったのだろうか。ヒトラー演説が「完成」したのはいつで、その後時代とともに「進化」を遂げたのだろうか。このような素朴な疑問について言語学者が答えを出そうとしたとき、どのようなアプローチが可能であるのかについて、いくつかの具体的分析を示しながら考えてみる。そのなかで見えてくる言語学者の限界をどうすれば克服できるのかについても言及する。


研究発表3
発表者:成田 節 氏(東京外国語大学)
題目:日独語の物語における視点 ― 原文と翻訳の対照を手がかりに

[発表要旨]

原文と翻訳で日独語の物語を読み比べると、個々の表現がもつイメージのずれなどは別としても、テキストから読み手が受ける印象が異なることが少なくない。たとえば芥川龍之介の「蜘蛛の糸」とその独訳Der Faden der Spinne (Jürgen Berndt訳)を読み比べると、日本語原文では極楽や地獄に読み手も居合わせて一連の出来事を眺めているような印象を受けるが、ドイツ語訳ではそのような臨場感はほとんど感じられない。このような違いはどこから生じるのだろうか。英語と日本語の「語り」の特質を考察する山岡實『語りの記号論』(増補版2005年)などを参考にし、特に時制と人称に注目してこの問題を考える。このようにして、以前から取り組んできた「視点」の考察を深めたい。


定例総会