例会

第93回例会

日時:2017年9月16日(土)13:30 ~ 17:00

場所:キャンパスプラザ京都6階 京都外国語大学サテライト講習室(第4講習室)

<<内容>>

研究発表会

司会者:吉村 淳一 氏(滋賀県立大学)

研究発表1
発表者:大喜 祐太 氏(三重大学)
題目:存在表現の意味を決定する要因

[発表要旨]

 本研究では、何らかの事物の存在について言及する存在表現に着目する。なぜなら、多くの言語が存在を言及する特定の表現を備えており、日常的な言語使用の場では、ある一つの表現に対して多様な用法を観察できるからである。そうした存在表現の意味解釈には、複数の形式的・意味的要因が絡み合っており、そのうえ、発話状況に依存して語彙や構文の使用の適切さに違いが見られる。本発表では、コーパスから抽出した用例を示しつつ、語彙の多様性と多義性、語用論的曖昧性などの概念を足がかりにして、ドイツ語存在表現の用法について考察する。


研究発表2
発表者:西野 由起江 氏(大阪大学大学院生)
題目:日本の主婦層向けテレビ番組の談話の考察―ドイツの料理番組との比較から見えるもの―

[発表要旨]

 主婦層を視聴対象とする日本のテレビ番組は、主婦向けという設定された枠組の中で主婦に役立つ情報を集め、番組内の談話行動を通して性別役割についての規範を明示的・暗示的に再生産している可能性があると考えられる。主婦という語の意味を形成し、語によって想起される規範はテレビの談話行動を通して伝えられ、前提として社会で共有されているのではないだろうか。本発表では、日本の主婦向けテレビ番組の談話行動とドイツの料理番組の談話行動を比較し、料理作りの談話行動から観察される性別役割についての考察を行い、料理作りというゴールが同じであっても、プロセスに見られるそれぞれの談話行動に見え隠れする規範に相違があることを例示する。


研究発表3
発表者:中村 直子 氏(大阪府立大学)
題目:名詞を第一構成要素としてもつ現在分詞―一語書きされる名詞-動詞結合のひとつのバリエーションとして―

[発表要旨]

 名詞-動詞結合の不変化詞動詞の用例を収集する際に、見過ごすことができないのが、名詞-現在分詞の結合をもつものである。一見したところ、名詞-動詞結合の不変化詞動詞における名詞と動詞の結びつきと似ているので目につくのだが、用例を見ていくと、少々異なった様相を持つところもある。今回は、扱う対象を、名詞-現在分詞の結合に限定して、名詞と(動詞の一形態である)現在分詞の結びつきについて考察する。これもまた、一語書き・分かち書きの境界領域にあるカテゴリーであるため、名詞-動詞結合における一語書き・分かち書きの考察のためのひとつのケーススタディとしたい。

第92回例会(30周年記念コロキウム)

日時:2017年5月20日(土)13:30 ~ 17:30

場所:キャンパスプラザ京都2階 第1会議室

<<内容>>

「ドイツ語研究の今後」
―「京都ドイツ語学研究会」発足30周年を記念して―

司会者:河崎 靖 氏(京都大学)


1. パネリストからの提言

題目:ドイツ語研究における『分かりやすさ』と出現頻度―lassen使役構文の分析を手掛かりに―

パネリスト:湯淺 英男 氏(神戸大学)


題目:J.Wickram ?Das Rollwagenbüchlin“におけるmöchteについて―ルター、英語、目的文などと関連させて―
パネリスト:工藤 康弘 氏(関西大学)


題目:『する型・なる型』表現類型から見たドイツ語とルクセンブルク語
パネリスト:田村 建一 氏(愛知教育大学)


題目:当たり前のようで意外なこと―『外』から見た語学研究・語学教育―
パネリスト:坂口 文則 氏(福井大学)


2. ディスカッション
[コロキウム要旨]

 京都ドイツ語学研究会は、昭和61年(1986年)12月13日に5名の発起人のもと発足会が開催され、研究会設立の趣旨説明および会則の承認、そして初代世話人の選出をもって正式に誕生いたしました。

○本会はドイツ語学・ドイツ語教育およびこれらに関連する領域の研究に携わるものが、相互の研究交流を深めることによって、それぞれの研究の充実を目指すとともに、相互の親睦をはかるものとする。

○本会はドイツ語学・ドイツ語教育およびこれらに関連する領域に関心をもつ研究者・大学院生等をもってその会員とする。

この会則に謳われているように、本研究会の目的は『相互の研究交流』による『それぞれの研究の充実』および『相互の親睦』となっています。『相互の研究交流』は主として年3回の例会〈研究発表会〉と年1回発行の会誌Sprachwissenschaft Kyotoによっておこなわれています。例会では毎回2~3名の方の発表があり、発表後の討論は長時間にわたることも稀ではありません。これまでの例会で発表されたテーマを見ますと、ドイツ語学の分野では統語論、意味論、語用論を中心に、伝統文法から比較言語学、生成文法、ヴァレンツ理論、テクスト言語学、モンタギュー文法など多岐にわたっています。最近ではドイツ語だけでなく他の言語に関する研究もさかんになっています。また、ドイツ語教育に関しては、会員それぞれの教育実践報告だけでなく、とくに1991年の『大学設置基準の大綱化』以降、日本におけるドイツ語教育が経験した大きな変革の中で、大学などでのドイツ語教育がどうあるべきか、ということもしばしば議論されてきました。会誌Sprachwissenschaft Kyotoは、会員のみなさんの研究発表の場として毎号多数の掲載依頼があり、編集委員会(世話人会)で会員あるいは会員以外から査読委員を選出し、厳正な審査のうえ論文として掲載しています。
一方、『相互の親睦』を実現できる場としては例会後の懇親会があげられるでしょう。初代世話人代表・西本美彦氏は次のように書いておられます。「懇親会とはいえ、実際にはこの場で腹を割った議論が展開されます。議論はドイツ語学ばかりではなく、言語学一般にまで及び、特に若い研究者にとっては、ある分野の代表的な研究者と直接意見交換や情報交換ができる貴重な場であり、欠かせない活動の一つと言えるかもしれません。」発足当初22名であった会員数は、この30年で約100名と増加しています。その理由のひとつとして会員相互の親睦を大切にしてきたことが挙げられるかもしれません。
こうした研究会30年にわたる活動全般を踏まえて、今回の記念コロキウムでは今後のドイツ語研究をどのように展開していくべきか、という観点で4名の方々にお話しいただきます。4名の方々の発表ののち、会場にお集まりのみなさまを交えて今回のテーマである『ドイツ語研究の今後』について話し合いたいと思います。実り豊かで活発な議論を期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。

 


定例総会

第91回例会

日時:2016年12月17日(土)13:30 ~ 17:00
場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)
<<内容>>

研究発表会

司会者:金子 哲太 氏(京都外国語大学)

研究発表1
発表者:安田 麗 氏(大阪大学)
題目:語末閉鎖子音の発音について―ドイツ語と英語の音声的類似語を対象にした生成実験の報告―

[発表要旨]

 ドイツ語では語末にある有声閉鎖子音/b//d//g/は,無声閉鎖子音として発音される。したがって、Badとbatはともに[ba:t]、wegとWeckはともに[vɛk]となり、原則として両者は同じ発音になる。このような音韻規則は英語にはなく、英語のbad [bǽd]とbat [bǽt]、wig[wıg]とwick[wık]の発音はそれぞれ語末閉鎖子音の有声・無声の対立を成している。このように英語とドイツ語の音韻規則には違いがあるが、日本人ドイツ語学習者の多くは中等教育過程においてすでに英語を学習し、その後ドイツ語の学習を始めるため、ドイツ語の発音においても英語の影響が見られる可能性が考えられる。そこで日本人ドイツ語学習者のドイツ語の発音では実際に語末閉鎖子音をどのように発音しているのかを生成実験を行い調べた。


研究発表2
発表者:岡部 亜美 氏 氏(京都大学大学院生)
題目:ドイツ語とオランダ語の所在動詞の体系的比較―liegen/liggen, stehen/staan, sitzen/zittenを対象に―

[発表要旨]

 ドイツ語とオランダ語は、複数の動詞を使い分けて物体の所在を表現する。このとき用いられる一群の動詞を所在動詞と呼ぶが、これら所在動詞の中で特に中心的な位置を占めるのが(de) liegen/ (nl) liggen, (de) stehen/ (nl) staan, (de) sitzen/ (nl) zittenである。本発表はこれら3種の動詞を対象に、ドイツ語とオランダ語における所在動詞の用法の差異を明らかにしようとするものである。研究手法としてはアンケートを用い、物体間の位置関係を記述する場合と、物体と人間(身体の一部)の位置関係を記述する場合の二つを分けて調査を行った。この際、(de) sitzen/ (nl) zittenの振る舞いにおいて、両言語は顕著な違いがあることが予想される。また調査結果は、所在動詞体系の中で論じる必要があることも指摘したい。

 


研究発表3
発表者:小川 敦 氏(大阪大学)
題目:ルクセンブルクにおけるドイツ語識字教育の問題点と施策

[発表要旨]

 ルクセンブルクでは、幼児教育にはルクセンブルク語が用いられるが、初等教育ではルクセンブルク語が第一言語であることを前提としてドイツ語で識字が行われる。また、教育の媒介言語もドイツ語である。フランス語教育は小学校2年生から導入される。一方、移民は増え続け、現在、人口約57万人のうちの47%、約27万人が外国籍である。それにともないルクセンブルク語が第一言語という前提は大きく崩れ、ドイツ語による識字教育には大きな疑問が投げかけられている。ドイツ語教育が社会階層の再生産や固定化を促し、機会均等を奪っていることも指摘される。本発表では、ルクセンブルクの言語教育の問題点を指摘した上で、現在とられている施策や現場での工夫を紹介する。特に、2013年末の政権交代後の施策や展望についても考えたい。

第90回例会

日時:2016年9月17日(土)13:30 ~ 17:30

場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

<<内容>>

研究発表会

司会者:筒井 友弥 氏(京都外国語大学)

研究発表1
発表者:渡辺 伸治 氏(大阪大学)
題目:gehen/kommenとgo/come

[発表要旨]

 本発表では、ドイツ語のgehen/kommenと英語のgo/comeのダイクシス性の違いを考察する。その際、使用条件に関するダイクシスと状況に関するダイクシスを区別するが、本稿では使用条件に関するダイクシスにもとづき考察する。gehen/kommen、go/comeはいくつかの用法に分類するが、使用条件に関するダイクシスがどの用法にどのように見られるかを比較、考察し、結論として、基本的に英語のgo/comeのほうがダイクシス性が強いことを述べる。また、できればgehen/kommenとgo/comeのダイクシス性の違いを歴史的な観点からも考察したいと思っている。


研究発表2
発表者:木村 英莉子 氏(京都大学大学院生)
題目:wissenを含む言語表現による談話標識の機能について―weißt duを中心に

[発表要旨]

 日常会話におけるコミュニケーションの中で、話し手は聞き手に反応を要求するために、様々な言語表現を使用している。weißt
du、weißt du wasなどのwissenを用いた談話標識はこの一種であるが、その機能、また、他の言語表現との関連性については明らかになっていない点も多い。本発表では、wissenを用いた談話標識について、これらがどのような場面に出現するのか、また、反応要求を行うためにどのように機能し、相互行為の中で話し手から聞き手へどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることを目標に置く。会話分析の手法を用い、ターンにおける出現位置毎に考察を行い、wissenを用いた談話標識の特徴について考察する。

 


第35回言語学リレー講義
講師:吉田 光演 氏(広島大学)
題目:生成文法と形式意味論から見る構造と意味のインターフェース―ドイツ語定冠詞を中心に―

[発表要旨]

 生成文法は統語構造の自律性を仮定するが、作用域解釈など、構造と意味が関連する論理形式レベルを認めている。これを進めて、生成文法と形式意味論を結合して、構造と意味のインターフェースを研究する方向はドイツ語研究においても有力である。これを踏まえて、定冠詞の構造(限定詞句)と意味(唯一性・既知性)を取り上げ、im, zumのような前置詞と定冠詞の融合形の意味について議論する。先行研究では、融合形は弱定名詞句として、指示性が弱い不定名詞句と分析されることもあるが、共有知識との関連において定解釈となる場合もある。非融合形との対比、名詞の種類、状況・文脈など、語用論を含む動的な分析が必要であることを示す。

第89回例会

日時:2016年6月4日(土)13:30 ~ 17:30

場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)

<<内容>>

研究発表会

研究発表
司会者:島 憲男 氏(京都産業大学)

発表者:納谷 昌宏 氏(愛知教育大学)
題目:機能動詞構造の生成 ―LCSに基づく分析―

[発表要旨]

次の文1aは基礎動詞、文1bは機能動詞構造を用いた文である。

1a Er verwendet das Geld.
1b Das Geld findet Verwendung.

1bのような機能動詞構造は何のために存在するのだろうか。どのような統語タイプがあるのだろうか。そしてそれらはどのような表現機能を有しているのだろうか。本発表ではこうした機能動詞構造の基本的な特徴を明らかにし、さらに如何なるメカニズムに基づいて、基礎動詞から機能動詞構造が生成されるのかを明らかにする。その際LCS(Lexical
Conceptual Structure=語彙概念構造)を用いて生成メカニズムを分析する。LCSは動詞の意味を抽象的な術語概念を用いて表示したものであるが、今回の発表ではLCSの抽出や融合によって、さまざまなタイプの機能動詞構造が生成されることを明らかにしたいと考えている。


第34回言語学リレー講義
司会者:島 憲男 氏(京都産業大学)
講師:在間 進 氏(東京外国語大学名誉教授)
題目:ドイツ語研究の問題点とそれを越える一つの試み

[発表要旨]

まず、①分析の「最終目標」、②その「実在性」、③その「証明可能性」、④論述における「自然言語」の使用の4点に関する私の「否定的な」考察を述べ、次に、そのような問題点を越える一つの試みとして、現在、①ドイツ語使用の根底には「一定の規則性」が「可変的」な形で実在している、②その「可変的規則性」は使用頻度の中に反映される、③これらの点を分析の基盤にし、「実用的応用」を目標にするならば、「ドイツ語使用頻度分析」は十分に意義ある研究になると考え、④言語データ分析の技術的可能性を試みつつ、⑤使用頻度分析に基づくドイツ語分析と記述を行っていることを、いくつか具体例とともに、報告します。


定例総会

第88回例会

日時:2015年12月12日(土)13:30 ~ 17:00

場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)

<<内容>>

研究発表会

研究発表1
司会者:吉村 淳一氏(滋賀県立大学)
発表者:細川 裕史氏(阪南大学)
題目:新聞における『第三帝国の言語』―キリスト教との類似性および話しことば性の観点から―

[発表要旨]

V.クレンペラーは、『第三帝国の言語』(1947)のなかで、ナチスによる熱狂的なことばづかいを「説教者」のことばに例えた。彼によれば、「第三帝国の言語」はキリスト教のことばを模倣したものであり、また一貫して「話しことば」だった。実際に、ヒトラーの演説を対象としたDube(2004)においては、キリスト教的な語彙の使用が頻繁にあったことが指摘されている。そこで、本発表では、ヒトラーが演説とならんでプロパガンダのための武器として重視した新聞を対象に、そこで使用されるキリスト教的な語彙の頻度を調査し、また印刷メディアである新聞にどの程度の「話しことば性」がみられるのかも考察する。


研究発表2
司会者:金子 哲太氏(京都外国語大学)
発表者:長縄 寛氏(関西大学非常勤)
題目:時、条件の従属接続詞sô, alsô, alsについて

[発表要旨]

中高ドイツ語のalsôはsôに強調のalが付加されたものであり、本来?ganz so“「まったくそのように」の意の様態を表す副詞であった。そしてalsは語末のôが消滅したもので、これも本来はalsôと同義の副詞である。その一方でsoは古高ドイツ語期から?wie“「~のような」の意の様態を表す従属接続詞としても用いられていたが、一部にはここから?als“やwenn“ 意で時や条件の従属接続詞へと発展した。中高ドイツ語期にはさらに、この機能がごく一部ではあるがalsô, alsへも引き継がれた。今日のalsは「~した時」という過去の一回的事象を表し、条件文の導入詞としてはwennを用いるが、中高ドイツ語でまだこのような区別は明確ではない。本発表では「ニーベルンゲンの歌」「イーヴァイン」「パルツィヴァール」の三作品に見られるsô, alsô, als構文を取り上げ、今日の用法とどう違うのか、また今日の用法に至る萌芽が見られないか検討したい。


研究発表3
司会者:岡部 亜美氏(京都大学大学院)
発表者:成田 節氏(東京外国語大学)
題目:ドイツ語のPassiv ―日本語の受身と比べると―

[発表要旨]

日独語の受動文に関する記述を基に、日本語の受影受動文のように主語の立場から事態を捉え、事態から受ける被影響感を表すことを中心的な働き
とするような受動文がドイツ語にはないという考えを提示する。その論拠として、ドイツ語と日本語の受動文における主語の有情性の違い、および
ドイツ語のvon-動作主と日本語の二格動作主の性質(被影響感をもたらす行為者性)の違いを挙げる。事例研究として日本語の小説から1人称
主語の受動文を取り出し、ドイツ語訳の対応箇所で1人称代名詞を目的語とする能動文が多く見られることを指摘し、被影響の観点からその原因を考察する。

第87回例会

日時:2015年9月19日(土) 13:30 ~ 17:30

場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)

<<内容>>

研究発表会

1.研究発表
司会者:薦田 奈美 氏(京都大学非常勤)
発表者:上村 昂史氏(同志社大学非常勤)
題目:バイエルン方言における複数1人称代名詞 ―動詞活用語尾との交替について―

[発表要旨]

 バイエルン方言 (Bairisch) が話されている地域の一部では、複数1人称代名詞mia の縮約形ma(以下:MA語尾)が、本来の複数1人称における動詞の活用語尾であるan(以下:AN語尾)の肩代わりに使用されるという事例が報告されている。本研究は、現時点における当該現象の実態について記述するものである。調査では、バイエルン方言圏に居住する若年層話者の話し言葉に着目し、当該の事例についてアンケートを行った。本発表では、先行研究における記述を概観し、調査の概要および結果について見た後、MA語尾とAN語尾の使用が拮抗している点を指摘する。最後に、その使用の拮抗について要因を探る。



2.シンポジウム:アプリ教材の可能性―『シンプルドイツ語単語帳』を例として―

司会者:田原 憲和 氏(立命館大学)
<報告1>
報告者:橋本 雄太 氏(京都大学大学院生)
題目:導入(デモンストレーション)


<報告2>
報告者:柏倉 健介 氏(郁文堂営業部)
題目:出版社の視点から ―現状の報告と企画の概要―

[要旨]

 各出版社において、ドイツ語教科書とデジタル端末の連動がどの程度行われているのかを述べる。その上で、今回のアプリがどのような意図で企画され、実現したのかを明らかにしたい。その際には、本アプリの特徴となる、「既刊の教科書への《後付け》として生まれたアプリであること」「無料公開されていること」の2点に触れることとなる。紙とデジタルは単に対立するものではない。むしろ相互補完的に連動しながら、教材に込められた目的をより高いレベルで実現することができるのではないか――こうした視点から、アプリ教材について考察したい。


<報告3>
報告者:西尾 宇広 氏(京都大学非常勤)
題目:教育者の視点から ―開発の経緯と目的―

[要旨]

 『シンプルドイツ語単語帳』は、主に学生が正規の授業時間外に活用することを想定して開発された語彙習得アプリであり、学生により多くの学習機会を提供し、その自発的な学習をサポートすることを目的としている。現状ではまだメディア環境等の点で、大学の授業過程に直接アプリを組み込むことは難しいが、授業の補助的なツールとしてアプリを活用することは、学習者のみならず教育者の授業運営にとっても資するところが大きいと思われる。本発表では、大学の語学教育に携わる者の視点から、同アプリの開発経緯とその運用可能性について述べる。


<報告4>
報告者:寺澤 大奈 氏(京都大学非常勤)
題目:学習者の視点から ―教育現場でのアンケートに基づく報告―

[要旨]

 発表者が教鞭を取る大学を中心に、本年度の前期、複数の大学で『シンプルドイツ語単語帳』アプリを実際に学生に使用してもらった。そして学期終わりに使用頻度や使用感などについてアンケートを取り、回答を得た。本発表ではこのアンケート結果を集計・分析することによって、現段階で本アプリが、ひいてはアプリ教材一般がどのような受け取られ方をしているのかを報告したい。さらに、発表者がドイツ語を教えている語学学校の生徒に対する聞き取り調査の結果や、発表者が個人的に本アプリを使用してみて気づいた点などに関しても追加で報告する予定である。


ディスカッション

第86回例会

日時:2015年5月16日(土)13:30 ~ 17:00
場所:キャンパスプラザ京都6階 京都大学サテライト講習室(第8講習室)
<<内容>>

研究発表会

研究発表
司会者:島 憲男 氏(京都産業大学)
発表者:大薗 正彦 氏(静岡大学)
題目:構文の適用可能性 ―日独語の好まれる事態把握との関連において―

[発表要旨]

本発表では,次に挙げるようなドイツ語の結果構文とbekommen受動を出発点とし,日本語の類似する構文と対照しながら,1. 言語によって構文の適用可能性――つまり,特定の構文がどのような状況の表現にまで適用され得るのか――が異なること,2.しかしながらその相違は言語全体の体系の中で十分に動機づけられていると見なすことができる,という二点を述べる。

(1) a. Hans hat den Boden kaputt getanzt.
b. *太郎は床をボロボロに踊った。
(2) a. *Hans hat den Apfel gegessen bekommen.
b. 太郎はリンゴを食べてもらった。
c. 太郎はリンゴを食べられた。

一見関わりのなさそうな両構文であるが,両者とも基本的に「人」を主語とする構文であり,「人」と「事象」が言語レベルでどのように関連づけられるのかという点において興味深い視点を提供するものである。


第33回言語学リレー講義
司会者:金子 哲太 氏(京都外国語大学)
講師:武市 修 氏(関西大学名誉教授)
題目:中高ドイツ語叙事文学の表現技法

[発表要旨]

言語は常に変容するものであるが、ドイツ語は8世紀半ば頃ゲルマン語派の中から英語などとはっきりと分かれ始め、それ以来ほぼ300年の周期で大きな変化を経て今日の形になってきたと言われる。最初期の古高ドイツ語期は、主として福音書などキリスト教の文献をラテン語などから翻訳することが中心であった。やがて騎士による騎士のための世俗の文学が宮廷で花開く。フランス文学に範を取る脚韻文学の時代で、詩人たちは詩行のリズムを整え行末で押韻するという制約の中で簡潔に美的世界を描出することに心血を注いだ。中高ドイツ語と呼ばれる当時の言語はそれによって大いに洗練された。本発表では、当時の脚韻文学の言語的特徴を、時に今日のドイツ語との関連を見ながら、tuon (nhd. tun)の代動詞用法を中心とした迂言表現(=言い換え表現)と縮約形を中心としたさまざまな語形および否定表現の三つの観点から紹介したい。


定例総会

第85回例会

日時:2014年12月13日(土)13:30 ~ 17:30

場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)

<<内容>>

研究発表会

司会者:筒井 友弥 氏(京都外国語大学)

研究発表1
発表者:佐藤 恵 氏(学習院大学大学院生)
題目:「上からの言語変化」と「下からの言語変化」― 2格支配の前置詞の成立史を例にして

[発表要旨]

今日2格支配とされる前置詞には、紆余曲折の歴史がある。発表者自身の「散文コーパス1520-1870」(書籍156冊)に基づく分析によれば、wegenとwährendは、18世紀の経過の中で3格が本来の2格と拮抗するまでに至ったにもかかわらず、1800年を境に3格が一気に激減し、2格が圧倒する。Labov (1994) の言語変化モデルに依拠すると、18世紀における3格の増加は「下からの変化」、19世紀における2格の圧倒は文法家Adelung (1781)に起因する「上からの変化」と説明することができる。この「上からの」2格化ゆえに、本来は3格支配のtrotzも19世紀の経過の中で次第に2格支配にシフトしていったのである。


研究発表2
発表者:吉村 淳一 氏(滋賀県立大学)
題目:『ニーベルンゲンの歌』におけるdesの韻律上の役割について

[発表要旨]

中世英雄叙事詩の『ニーベルンゲンの歌』において、いわゆる「2格目的語」が539例ほど確認でき、そのうち名詞の2格は176例、指示代名詞(あるいは関係代名詞)の2格desはその数を上回り217例も見られる。また、desはそのような用例だけではなく、代名詞的副詞、定冠詞としても使用されているが、代名詞のdesは前行(Anvers)や後行(Abvers)の行頭で、冠詞のdesは後行の行頭で非常に高い頻度で使用されている。本発表ではこのような傾向がこの作品特有のものであるのかどうかを確かめるために他の叙事詩と比較しながら、この作品においてdesが果たす韻律上の役割についてより詳細に考察したい。


研究発表3
発表者:宮下 博幸 氏(関西学院大学)
題目:接頭辞・不変化詞überを伴う動詞における意味変種の実現について

[発表要旨]

動詞接頭辞・不変化詞のüberは、伝統的なドイツ文法研究では特に形態論的な観点からその意味的分類がなされてきた。また近年 über は認知言語学の立場に立つ研究者によっても頻繁に注目されてきた。本発表ではこれらの研究を概観した後、接頭辞・不変化詞動詞において、複数の意味変種のうちの一つがどのように立ち表れてくるのかという問題を取り上げる。その際、各々の意味変種が接頭辞・不変化詞の意味と、基本動詞の持つ意味との相互作用によって実現されるという立場から考察を進めたい。この立場から基本動詞のタイプと意味変種との相関関係の一端を明らかにし、さらに分析の中で接頭辞動詞と不変化詞動詞の相違の問題にも言及してみたい。

第84回例会

日時:2014年9月20日(土)14:00 ~ 17:00

場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)

<<内容>>

研究発表会

司会者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)

研究発表1
発表者:筒井 友弥 氏 (京都外国語大学)
心態詞 jaに関する一考察 ― 話法詞 vielleichtとの共起をてがかりに ―

[発表要旨]

平叙文における心態詞 jaと話法詞vielleichtの共起では、命題の事実性(既知性)を表明する jaの機能と、事実の可能性を表明するvielleichtの機能において、意味的な相殺を伴い使用に齟齬をきたすと考えられる。しかし、実際には、例えば ?Du hast ja vielleicht Recht.“といった文が多く観察され、日常会話において支障なく用いられる。本発表では、最初に当該の文構造に関する先行研究を紹介し、その見解の問題点を指摘したうえで、続けて妥当な解決策を模索する。その際、心態詞jaの既知性に焦点を当て、主に jaの表す含意を考察することで、jaと vielleichtの共起に見られる現象に可能な解釈を示すことが目的である。それにより、心態詞 jaの新たな用法を見出す試みとしたい。


研究発表2
発表者:藤原 三枝子 氏 (甲南大学)
題目:大学における基礎ドイツ語学習者の動機づけと教材との関係性

[発表要旨]

第二言語習得の動機づけ研究は、その先駆者であるGardner、R.C.らの社会心理学的アプローチから、90年代以降、教育実践と直結した方向へシフトしたが(e.g. Crookes & Schmidt 1991; Dornyei 2001; Skehan 1989)、管見の限り、ドイツ語教育ではこの分野の研究はまだ少ない。本発表は、動機づけという心理的要因を研究対象とするために、心理学の包括的理論である「自己決定理論」(Self-Determination Theory)を枠組みとして発表者が行った実証的研究を扱う。授業は時間的にかなりの部分を教科書での学習が占めていると学習者は認識している(Slivensky 1996)ことから、本発表は、特に、動機づけに影響しうる要因として、コミュニケーション中心の教科書に対する学習者の認知と動機づけとの関連を探ることを目的とする。時間が許せば、現在日本の大学で広く使用されている教科書の分析についても言及する。