場所:キャンパスプラザ京都6階 立命館大学サテライト講習室(第1講習室)
<<内容>>
研究発表会
司会者:筒井 友弥 氏(京都外国語大学)
研究発表1
発表者:佐藤 恵 氏(学習院大学大学院生)
題目:「上からの言語変化」と「下からの言語変化」― 2格支配の前置詞の成立史を例にして
[発表要旨]
今日2格支配とされる前置詞には、紆余曲折の歴史がある。発表者自身の「散文コーパス1520-1870」(書籍156冊)に基づく分析によれば、wegenとwährendは、18世紀の経過の中で3格が本来の2格と拮抗するまでに至ったにもかかわらず、1800年を境に3格が一気に激減し、2格が圧倒する。Labov (1994) の言語変化モデルに依拠すると、18世紀における3格の増加は「下からの変化」、19世紀における2格の圧倒は文法家Adelung (1781)に起因する「上からの変化」と説明することができる。この「上からの」2格化ゆえに、本来は3格支配のtrotzも19世紀の経過の中で次第に2格支配にシフトしていったのである。
研究発表2
発表者:吉村 淳一 氏(滋賀県立大学)
題目:『ニーベルンゲンの歌』におけるdesの韻律上の役割について
[発表要旨]
中世英雄叙事詩の『ニーベルンゲンの歌』において、いわゆる「2格目的語」が539例ほど確認でき、そのうち名詞の2格は176例、指示代名詞(あるいは関係代名詞)の2格desはその数を上回り217例も見られる。また、desはそのような用例だけではなく、代名詞的副詞、定冠詞としても使用されているが、代名詞のdesは前行(Anvers)や後行(Abvers)の行頭で、冠詞のdesは後行の行頭で非常に高い頻度で使用されている。本発表ではこのような傾向がこの作品特有のものであるのかどうかを確かめるために他の叙事詩と比較しながら、この作品においてdesが果たす韻律上の役割についてより詳細に考察したい。
研究発表3
発表者:宮下 博幸 氏(関西学院大学)
題目:接頭辞・不変化詞überを伴う動詞における意味変種の実現について
[発表要旨]
動詞接頭辞・不変化詞のüberは、伝統的なドイツ文法研究では特に形態論的な観点からその意味的分類がなされてきた。また近年 über は認知言語学の立場に立つ研究者によっても頻繁に注目されてきた。本発表ではこれらの研究を概観した後、接頭辞・不変化詞動詞において、複数の意味変種のうちの一つがどのように立ち表れてくるのかという問題を取り上げる。その際、各々の意味変種が接頭辞・不変化詞の意味と、基本動詞の持つ意味との相互作用によって実現されるという立場から考察を進めたい。この立場から基本動詞のタイプと意味変種との相関関係の一端を明らかにし、さらに分析の中で接頭辞動詞と不変化詞動詞の相違の問題にも言及してみたい。