第73回例会

日時:2010年12月18日(土) 13:30 ~ 17:30

場所:京都大学 楽友会館「大会議室」

<<内容>>

研究発表会

1.研究発表
発表者:湯淺 英男 氏 (神戸大学)
題目:接続法第2式非現実話法の非現実性について―モダリティと文法との関わり―

[発表要旨]

 藤縄康弘(2009)は日本独文学会賞を受賞した、実現した事態を表わす接続法第2式の文Das hätte ich geschafft!を扱った論文に関わって興味深いことを述べている。左記の接続法の例や既成事実を表わす「残念」「嬉しい」表現のzu不定詞なども含め、「未然から既然」への転化においては、「文法(体系)とコミュニケーション(行動)の接点として、むしろ情こそ注目に値する」と。また日本語文法において尾上圭介(2001)は発見・感動の「水!」と存在しないものの要求としての「水!」を、「存在承認」と「存在希求」とに分類しているが、このことは「水」の出現する現在時・未来時という時間をモダリティが左右しているとも言える。本発表では、こうした発話に関わるモダリティが文法形式本来の意味に及ぼす影響を遠くに見通しつつ、さしあたり接続法第2式の非現実話法において実際に非現実な事態が表現されているのかどうかを具体的な事例に即して考察してみたい。



2.シンポジウム:代名詞・虚辞・填辞 ― es をめぐるシンポジウム

[シンポジウム要旨]

ドイツ語の esという形式にはこれまで様々な機能が指摘され、また分類がなされている。このシンポジウムではとりわけ esの代表的な機能である代名詞・虚辞・填辞としての用法に注目し、各発表者が得意とする角度から、これらの用法への接近を試みる。es にはまず代名詞としての用法があるが、同じような環境で現れる代名詞には、dasがある。それぞれの代名詞にはどのような機能上の相違が見られるであろうか。吉村は両者の機能上の違いに焦点を当て、一つの試みとして2格研究の立場から、中高ドイツ語の作品に見られる es/ez
の機能について取り上げる。また es は一般に虚辞と見なされ、「非人称構文」の主語として囲い込まれてきたが、ドイツ語は虚辞 es の出現に関して格段に精緻な言語である。この虚辞 esは言語類型の観点から見ると、どのように位置づけられるであろうか。小川はドイツ語を出発点として他のヨーロッパ諸語や日本語などの対応物を比較検討し、ドイツ語の個別的特徴と並んでその背後にある普遍的特徴を探る。es にはさらに統語的な空所を埋める填辞としての用法も見られる。この esはしばしば純粋に統語的な意味での機能が指摘されてきたが、実際にこの形式を使用する際とそうでない場合との、意味上の差異は存在しないであろうか。宮下はコーパスならびにインフォーマント調査に依拠することでこの問題を扱う。
以上の報告により、es の包括的理解を目指すきっかけを作り出すことが、本シンポジウムの目的である。


報告1
報告者:吉村 淳一 氏(滋賀県立大学)
題目:『ニーベルンゲンの歌』における2格のesの機能について

[要旨]

 本報告では人称代名詞と指示代名詞の機能上の違いに焦点を当て、2格研究の立場から、esの機能についてアプローチしたい。中高ドイツ語において、300以上の2格動詞が確認されている。しかし、現在では2格動詞は8個ほどにまで減少し、2格の動詞修飾的な機能は失われつつある。2格衰退の原因の一つに13世紀中頃に2格のesと4格のezに見られる音声上・形態上の区別が取り払われたことが挙げられる。しかし、実際には、例えば『ニーベルンゲンの歌』において、代名詞の2格は人称代名詞esで出現するよりも指示代名詞desで出現する方が圧倒的に多く、さらには人称代名詞の2格の別形sinが出現することさえもある。desは明確に2格であることを示すのに対して、esは形態上の区別を曖昧にするため、作品全体において出現する割合が低い。また、esは動詞や代名詞との融合形(例:sagts, dichsなど)で現れたり、完本としてみなされる3つの写本(A,B,C)において、ezで表記されたり、sinで表記されたり、写本によって表記上のゆれが多く見られる。そのような問題点を紹介しつつ、es とdesの機能上の違いがあるかどうかを検証することを試みる。


報告2
報告者:小川 暁夫 氏(関西学院大学)
題目:いわゆる虚辞esの機能と類型について

[要旨]

 いわゆる虚辞esについてはその様々な用法が指摘され、また分類がなされる一方で、Platzhalterやdummyといった統語的呼称で一律に「非人称構文」の主語として囲い込まれてきた経緯がある。本報告では「非人称構文」を通常の「人称構文」から硬直的に独立したものではなく、その相対性・連続性の中で特徴づけることを試みる。虚辞(expleo)が原義どおり「文を完全にする」ことを目的とするならば、そこには形式や統語のみならず意味や機能が問題となると予想されるからである。虚辞esの出現に関して格段に精緻なドイツ語を出発点として他のヨーロッパ諸語や日本語などの対応物を比較検討することで、言語類型における個別的特徴と並んでその背後にある普遍的特徴を解明する手掛かりとしたい。天候・気候述語、感覚・心理表現などの具体的事例に基づいて議論を組み立て、非人称構文についての再考、ひいては理解の転回を促したい。


報告3
報告者:宮下 博幸 氏(金沢大学)
題目:いわゆるテーマの es の出現とその機能について

[要旨]

 本報告では es の多様な用法のうち、テーマのes もしくは前域のes と呼ばれる用法を詳しく考察する。この es
は天候などを表す非人称構文に現れる es とは異なり、前域に他の文肢が現れると不要となる。本報告ではこの es がどのような環境で出現するのか、この es
を使用した場合とそうでない場合にどのような相違が生じるのか、またその機能はどのようなものかを明らかにしたい。報告ではまずこの es に関して文献でこれまで指摘されてきたことをまとめる。引き続きこの
es を含むコーパスのデータを用いて、この es の実際の言語使用におけるいくつかのタイプを指摘したい。そしてこのデータが先行研究との関わりでどのように評価可能かを考察する。
さらにインフォーマント調査に基づき、この es の使用条件について、さらに精緻な分析を行いたい。これらの分析から、この es の機能の解明を目指す。最終的にこのes
と他の非人称構文の機能との共通点(ならびに相違点)にも触れる予定である。

 


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