第71回例会

日時:2010年5月22日(土) 13:30~17:00
場所:京都ドイツ文化センター
<<内容>>

研究発表会

司会者:桐川 修 氏(奈良高専)

研究発表1
発表者:工藤 康弘 氏 (関西大学)
題目:16世紀ドイツ語における時制の一致について

[発表要旨]

 ドイツ語史の古い段階では、副文に現われた接続法の時制を主文の時制に合わせるという、いわゆる時制の一致の規則があった。現代ドイツ語では主文と副文の間にこのような時制のつながりはない。時制の一致の規則がいつ、どのように崩れたのかを通時的に考察し、それがドイツ語にとってどういう意味を持つのかを明らかにするのが、本研究の最終目標である。その第一段階として本発表では16世紀の状況を明らかにしたい。古い言語では当該の動詞が接続法かどうかの判断が現代語よりいっそう難しい。このような形態論的な問題をどう処理するかについて論ずるほか、コルプスに関しても言及したい。


研究発表2
発表者:長友 雅美 氏 (東北大学)
題目:Warum schreibt man heute nicht, wie man spricht?

[発表要旨]

 「話すように綴れ”Schreibe, wie du spricht!”」とはアーデルング以来,ずっとドイツ語の表記に関係してきた人々にとっては,実現しえぬ願望である。「書記素Graphem(字母と呼ばれることもある)」と「音素Phonem」との間の様々な問題が山積しているとはいえ,少なくとも標準ドイツ語育成のため,あるいは教育的もしくは愛国的な意味で数多くの提案が正書法について出され,それに基づき,今日まで幾度も正書法辞典が刊行されてきた。もっともこのアーデルングの秀案が現実にはあまり考慮されていない理由(こと)も,ドイツ語史や辞書学史の文献を紐解けば理解できる。これはどんなに書記法を考えても,音と文字もしくは文字と音との厳密な対応が困難であることに起因する。
各方言変種も含め,教育言語として取り扱われている標準語ですらも,話ことばのレベルともなれば様々な要因で多種多様に発音が変化しているのに対し,書きことばのレベルでは書記媒体によって当然固定化されあるいは標準化されてしまい,結果として話ことばの変化は綴りには反映されることはかなり稀である。極言すれば,どのような書記素を用いても,話ことばの発音を忠実に再現するのは不可能と言ってよいかもしれない。だとすれば,アーデルングの原則はあくまで「そうあって欲しい」という願いなのか。
今回の発表では,教育言語としてのドイツ語ではなく,特定地域密着のドイツ語の方言変種を考えた場合,現実に耳にする音の集合体としての自然会話を記述し,印刷記述媒体として伝承していく場合に,一定の書記法つまり正書法が必要なのか,その場合何が問題となるのかいったことを標準ドイツ語の正書法改革の流れとともに,我々が再考するための契機となればよいと考える次第である。


定例総会

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