第67回例会(研究発表会)

日時:2008年12月13日(土) 13:00~17:00
場所:京都産業大学サテライト第2講習室(キャンパスプラザ京都6階)
<<内容>>

1.シンポジウム 「ルクセンブルクの言語文化と言語意識」

[シンポジウム要旨]

 ルクセンブルクはフランス語、ドイツ語、ルクセンブルク語の三言語を公用語とする多言語国家である。中でもルクセンブルク語は、1984年のいわゆる「言語法」によってその地位が確立された新しい言語である。大半のルクセンブルク人が母語とするルクセンブルク語は、元来、書きことばとして用いられることがほとんどなかったが、近年、児童文学を初めとする分野でルクセンブルク語の使用が増加している。
現在、ルクセンブルクの人口の40%以上が南欧諸国出身者をはじめとする外国人である。さらに、多くの国際機関や国際企業がルクセンブルクに拠点を構えており、人口わずか45万人強のこの国は、日常的に多言語、多文化が接触し、共生している。
このような独特な言語文化のこの国では、「ルクセンブルク人」としてではなく、むしろ「ヨーロッパ人」であるというアイデンティティを持つ人の割合が他の欧州諸国に比べてはるかに高い。しかし、一方では、外国出身者を含めた国民の統合の象徴として、ルクセンブルク語の存在意義は高まっている。
本シンポジウムでは、19世紀初頭から現在までのルクセンブルクの言語文化と言語意識について、それぞれの時代における言語文化を異なる視点から考察する。その上で、ルクセンブルクないしルクセンブルク人におけるルクセンブルク語の位置づけと、その根底に流れるルクセンブルク人意識について明らかにしていくことを主な目的としている。

基調講演
講師:ジャン・クロード・オロリッシュ 氏 (上智大学副学長)
題目:現代のルクセンブルクにおける言語文化とルクセンブルク人意識

[要旨]

 ルクセンブルクの地では、歴史的に見てもさまざまな文化が出会い育まれてきた。本講演では、とりわけ19世紀以降のルクセンブルク文化とルクセンブルク人意識について紹介し、ルクセンブルク人アイデンティティ形成の背景について述べる。


報告1
報告者:田原 憲和 氏(大阪市立大学非常勤、大阪市立大学UCRC研究員)
題目:19世紀におけるルクセンブルク語の「発見」とディックス・レンツ正書法

[要旨]

 ルクセンブルク語は元来モーゼルフランケン方言に分類されるドイツ語方言の1つであるが、19世紀前半になりいくつかの方言文学が生まれた。本発表では、ルクセンブルク語正書法策定に際して生じた言語観を巡る論争から、当時の言語意識について探る。


報告2
報告者:小川 敦 氏(一橋大学院生)
題目:第二次世界大戦以降のルクセンブルク語とルクセンブルク人意識

[要旨]

 ルクセンブルクにおける言語意識には、19世紀終わりから今日まで一貫して、多言語主義と母語意識という2つの方向性が見られる。本発表では、ナショナリズムとともに母語意識の高揚が見られた第二次大戦後の言語意識の特異性と連続性について考察したい。


報告3
報告者:木戸 紗織 氏(大阪市立大学院生)
題目:EUが掲げる言語理念とルクセンブルクにおけるその実践 ― アイデンティティのグローバル化とローカル化 ―

[要旨]

 EUは多言語主義の理念を掲げ、複言語教育を推進する施策を行っている。しかし、既にそれを実践しているルクセンブルクでは、グローバルなアイデンティティとローカルなアイデンティティが交錯している。本発表では、このアイデンティティの分裂と融合について考察する。


報告4
報告者:田村 建一 氏(愛知教育大学)
題目:ルクセンブルクにおける語学教育の現状と問題点

[要旨]

 ルクセンブルクでは三言語による学校教育が行われているが、国民の母語であるルクセンブルク語教育が不十分であること、外国出身者の子弟にとって負担が大きいことなどの問題点が指摘されている。本発表では、昨年に教育省がまとめた今後の「言語教育の指針」について考察する。


2.全体討論

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