日時:2007年5月26日(土) 13:30~17:30
場所:京都ドイツ文化センター
<<内容>>
研究発表会
司会者:齋藤 治之 氏(京都大学)
研究発表1
発表者:西野 由起江 氏 (京都大学大学院生)
題目:女性名称におけるアイデンティティとイデオロギー ──「母性」という語をケーススタディとして──
[発表要旨]
女性名称が、男性名称に比べて一般的な人を表す語として使用されてこなかったことに着眼し、各時代の社会的な観念のパターンが付加され使用されてきたことを検討する。女性名称の問題点を指摘する先行研究の多くが、フェミニズム運動の一環として言語表現の是正に注目しすぎてきたことを指摘し、中立語の有用性を認めつつもドイツ語名詞の文法性まで中立語化することは行き過ぎた矯正であることを検証する。
また、言語表現における性差が示す内容には、生物学的な性だけではなく役割としてのジェンダーも示すことに注目し「母性」という語のケーススタディをもとに女性性を表す語を分析する。本発表においては、ジェンダー・スタディーズの視点を用いて、語に含まれるアイデンティティとイデオロギー関係の解明を試みる。
研究発表2
発表者:田原 憲和 氏(大阪市立大学非常勤講師)
題目:ルクセンブルク語における外来語について
[発表要旨]
ルクセンブルクの公用語の一つであり、唯一の国語であるルクセンブルク語は、これまで主として話しことばとして用いられていた。近年においては、徐々にではあるが書きことばとしても使用されるようになり、1999年には新たな正書法が制定された。
しかし、以前からルクセンブルク人の主要な書きことばとしてドイツ語が広く用いられており、そのうえ、元来ルクセンブルク語はドイツ語のモーゼルフランケン方言に属する言語である。ゆえに、本来のドイツ語式綴りとルクセンブルク語式綴りが併用されるなど、ルクセンブルク語正書法における外来語の取り扱いは複雑である。
本発表では、ルクセンブルク語正書法を概観し、その中でもとりわけ外来語表記における諸規則・諸傾向に注目する。ルクセンブルク語正書法を通じ、ルクセンブルクにおけるドイツ語の役割についても考察する。
研究発表3
発表者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)
題目:現在完了の「意味」について─―通時的考察にもとづいて―─
[発表要旨]
ドイツ語史において現在完了形が初出するのは古高ドイツ語においてである。主要な史的文法書や研究書では、この時期の原初的な出現例に見られる形態的・統語的特徴からこの形式が持つ構造的特徴を解き明かし、これを出発点にしてその時制・アスペクト的意味(用法)記述を行っている。
ところでBrinkmannは古高ドイツ語に関する論考(1965)の中で、完了形の例に、まとめた(zusammenfassend)り、強調した(nachdrückend
)り、また因果関係(Kausalität
)を表したりする意味機能をみている。本発表では、彼の意味分析を捉えなおし、さらにこれを中高ドイツ語の例にも応用して、この形式に付随して現れると考えられる意味論的特徴について指摘したい。現在完了の意味論的分析と言えば、時制やアスペクトの観点からの分析が一般的であるが、それらとは異なる観点からのアプローチの可能性について議論し、時制研究の問題点や課題等も明確になればと思っている。