場所:キャンパスプラザ京都6階 京都産業大学サテライト第2講習室
<<内容>>
発表1
発表者:工藤 康弘 氏(関西大学)
題目:接続法の時制の一致について ――初期新高ドイツ語の場合──
[発表要旨]
私が学校で英語を習ったとき、間接話法では時制の一致に注意しろとやかましく言われた。翻ってドイツ語の授業では時制の一致を習ったことも、また教えたこともない。「ドイツ語に時制の一致はない」という言葉をときどき耳にするが、果たしてこれは正しいのであろうか。英語の間接話法では主として直説法が用いられ、そこに時制の一致がある。これに対してドイツ語では直説法と接続法2つの手段があり、前者では英語と同じ時制の一致があると思われる。接続法の場合、1式を現在形、2式を過去形と呼ぶならば、時制の一致はない。つまり主文の時制とは無関係に、1式または2式を選ぶことができる。私たちが「英語には時制の一致があり、ドイツ語にはない」と言うとき、英語の直説法とドイツ語の接続法というまったく別次元のものをいっしょにしているのではないだろうか。
本発表の主眼は接続法における時制の一致が初期新高ドイツ語期にどの程度存在しているか、あるいは崩れているかを調べることにある。私はこれまで接続法の用法、未来形と
wollen/ sollen の関係、würde文の発達といった研究の副産物として、時制の一致にも折に触れて言及してきた。すなわち大雑把に言って初期新高ドイツ語には時制の一致が機能しているようである。このことをより精密に裏づけ、さらにこの時制の一致が崩壊するプロセスまでを明らかにするため、ある特定のテキストではなく、複数のテキストを含んだコルプスを用いた調査を行ないたい。本来なら間接話法や目的文等、時制の一致が関わる文タイプを出発点にすべきであるが、今回使用するボン・コルプスのように、デジタル化された資料から検索機能によって間接話法を集めるのは容易ではなく、何らかの工夫が必要である。今回はこの方法をとらず、かつて未来形との関わりで収集した
werden のうち、利用されずにいた多くの受動文を用い、それらが間接話法等に現れたケースを分析する。
第28回言語学リレー講義
講師:下宮 忠雄 氏(学習院大学名誉教授)
題目:ヨーロッパ諸語の中のドイツ語の位置
発表2
発表者:増田 将伸 氏(京都大学院生)
題目:『どう』の語用論的分析 ――会話中の質問の用法から――
[発表要旨]
様態の不定副詞である「どう」は、興味深い語用論的問題をはらんでいる。質問、感嘆に加えて「どう~か」「~かどうか」などの形で不定の叙述にも用いられる点は、各発話行為間の連続的な関係を体現している。また、質問に用いられる際には、指す内容があまり限定的でないために、文脈依存的な性質を強く持っている。本発表では、『日本語話し言葉コーパス』の対話例で質問に用いられている「どう」の用例を主に取り扱い、会話分析の手法で分析する。「どう」を用いた質問をめぐるやり取りが形式や会話中の位置によって異なる様子を確認し、そこに表れる会話参与者の相互行為の検討を通じて、会話の中での「どう」の用法を記述する。「どう」は日本語の副詞であるが、日本語学にとらわれず語用論の視座から発表を行う。