第59回例会(研究発表会)

日時:2006年5月27日(土) 13:30~17:30
場所:京都ドイツ文化センター
<<内容>>

1.研究発表
発表者:尾崎 久男 氏(大阪大学)
題目:初期近代ゲルマン語の同族目的に対する許容態度 ──「詩編」および『新約聖書』の用例を中心に ──

[発表要旨]

 これまで『聖書』の文体の大きな特色の一つとして「反復」が挙げられてきた。この技巧はもちろん古典語に限定されず、ゲルマン語本来の修辞法でもあったであろうが、そこには同一(あるいは同類)語句の繰返しによって、意味の強調などの文体的効果を与え、同時に文にリズム(特に頭韻の働き)を加えようとする試みがかなり顕著に認められる。この反復の機能はまた、『聖書』特有の慣用表現とされる同族目的語の語法にも現れていると考えられる。
従来から英語聖書欽定訳(1611)には同族目的語の豊富な資料が見出され、貴重な宝庫となっていると指摘されてきた。ところが、欽定訳の90%は基本的にティンダル訳(1526)によるものと考えられている。また、ティンダルはイギリスを逃れて、ドイツのヴィッテンベルクで翻訳を続けたが、彼の翻訳にはルターの影響が大きい。さらに、オランダ語聖書公定訳(1637)やデンマーク語聖書クリスチャン3世訳(1550)などもルター訳(新約1522;旧約1534)の影響を強く受けている。
本発表は2つの部分から成立っている。前半ではまず、後半において行う同族目的語の統語考察の基礎となるべきいくつかの点について述べる。すなわち、中世ゲルマン語聖書における同族目的語を概観して、その特異的な統語的特徴を明らかにする。さらに後半部は、16、17世紀の生んだ、英語・ドイツ語・オランダ語による『聖書』翻訳の中で同族目的語に対する、それぞれの許容態度を考察しようとするものである。 なお、今回の調査では言語資料としてノートカーによる「詩編」や『ヴァハテンドンク詩編』、およびウルフィラによるゴート語聖書や『タツィアーン』も扱うため、特に「詩編」と『新約聖書』の翻訳における同族目的語の用例を中心に調査を行った。


2.研究発表
発表者:柴崎 隆 氏(金城学院大学)
題目:スイス・ドイツ語方言の言語的特徴に関して

[発表要旨]

 スイスのドイツ語圏はまさにヨーロッパにおけるダイグロシア(2変種併用)の典型的な地域とされてきた。社会言語学者ファーガソン(Ferguson)の定義によれば、ダイグロシア(Diglossie)とは同一言語の2変種(上位変種と下位変種)が相互補完的にそれぞれの社会的機能に応じて使い分けられている状況を指している。すなわちスイス人同士の日常の会話では一般的に(地域ごとに多少なりとも異なる)スイス・ドイツ語方言が用いられるのに対し、一方で学校の授業用語や車内放送等、公的度が高い場合と、公私の区別なく文章語一般はスイス版標準ドイツ語が用いられてきた。しかし1960年代以降の第五次の方言化の波(Mundartwelle)以降、上位変種であるスイス版標準ドイツ語が本来占有してきた領域まで下位変種であるスイス・ドイツ語方言が侵食しつつある状況にあり、この21世紀初頭は、これまで以上に方言がスイスにおける活力あるコミュニケーション手段となっているとまで言われている。スイス・ドイツ語方言のこうした隆盛にもかかわらず、残念ながら日本においてはドイツ語のこの変種に関してあまり知る機会がないのが実情といえよう。今回は谷間の数ほどあると揶揄されるスイス・ドイツ語諸方言の中で最も話者数が多く(スイス国民の約1/4)、スイス最大の都市として経済的・文化的にも影響力のあるチューリヒのドイツ語方言(Züritüütsch)を中心に、スイス・ドイツ語方言に広く観察される言語的特徴の一端を紹介するとともに、中高ドイツ語の直接の後裔としてのアレマン方言の代表格ともいえるスイス・ドイツ語方言を、スイスで市販されている教材を用いて聴覚的にも体験してもらう。


3.定例総会

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