第53回例会(研究発表会)

日時:2004年5月29日(土)13:30~17:30

場所: 京都ドイツ文化センター

<<内容>>

1.報告
報告者:増本 浩子 氏(姫路獨協大学)
題目:ラジオによるドイツ語授業の3つの困難

[要旨]

私は2003年4月から半年間、NHKラジオドイツ語講座入門編を担当した。番組担当中は、ラジオというメディアを使ったドイツ語授業に特有の問題に悩まされた。普段行なっている大学での授業との相違から、特にとまどったのは次の3点だった。
1) 不特定多数の人々を対象にしていること: リスナーの年齢には大きな幅があり、彼らの関心やドイツ語を学ぶ動機は様々である。そのため、すべてのリスナーが満足できるような番組を作ることはほぼ不可能に等しい。
2)フィードバックが欠けていること: 相手の顔が見えないので、こちらの言いたいことがちゃんと伝わったかどうか、その場では把握できない。また、テスト等も行なうこともできないので、リスナーが番組を通じてどの程度ドイツ語力を身につけたのかもわからない。
3)視覚教材が使えないこと: ラジオだから写真や実物を見せられないのは当然としても、教科書や黒板さえ使わず、すべて耳で聞いてわかるようにことばで説明するのは、想像するよりはるかにむずかしいことだった。(書店で販売しているテキストの購入を義務づけることはできないので、番組は原則的にリスナーがテキストを持っていないものとして構成される。また、リスナーの中には視覚障害者も多い。)
研究会では、これらの困難を克服するためにどのような工夫をしたかについて報告する。また、世間でドイツ語学習に対する関心が薄れつつある昨今、テレビやラジオの講座が果たす役割についても考えてみたい。



2.第27回言語学リレー講義
講師:齋藤 治之 氏(京都大学)
題目:ゲルマン語動詞組織の特徴――他のインドヨーロッパ諸語との比較において――

[要旨]

ゲルマン語の動詞組織の特徴は語根が本来有するAktionsartとは無関係に、動詞がその音韻構造に従って、語根をⅠ類からⅦ類までの母音交替のパターンに組み込み、それに基づいて 1. 不定詞、2. 過去単数形、3.過去複数形、4. 過去分詞形を形成する、という点にある (例:Ⅰ類 1. CeiC-(>CīC-)、2. CoiC-(>CaiC-)、3. CiC-、4. CiC-)。他のインドヨーロッパ諸語においてはこのような機械的なパターン化は稀であり、祖語の古い段階の動詞組織を保持すると考えられているサンスクリット語やギリシア語では、完了相の動詞は“語根アオリスト”、未完了相の動詞は“sアオリスト”という具合に、動詞の語根が有するAktionsartが動詞組織の形成に重要な役割を果たしている。本発表では、近年研究の進展とともに、動詞組織に関してサンスクリット語やギリシア語のような古いタイプの言語とゲルマン語のように比較的新しいタイプの言語の中間に位置すると考えられるようになっているトカラ語の例も挙げることにより、インドヨーロッパ語族に属する諸言語の動詞組織の発展を辿り、それによりゲルマン語の動詞組織の特徴を浮き彫りにすることを目指している。


3.定例総会

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