第47回例会(研究発表会)

日時:2002年5月25日(土) 13:30~17:30

場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

1.研究発表
発表者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)
題目:『2重過去完了形』の位置付けについて

[要旨]

 ドイツ語には一般に、6つの時称形式がみとめられているが、ときとして完了形が2重に構造化されたようにみえる統語形式が現れることがある。
a) Er hat die Arbeit schon abgeschlossen gehabt.
(彼は仕事をもう終えてしまっていた。)  G.Helbig /J.Buscha 1994 S.160

b) Frau R. hatte den Pachtvertrag gekündigt gehabt.
(R女史は用益賃貸借契約を解約していたのだった。)  H-W. Eroms 1984 S.347

これらの統語形式のうち、一般に、a)タイプのものは、とりわけ話し言葉での使用がみとめられる一方、文章語においては
b)タイプのような表現が散見される。こうした統語現象が現れる頻度は絶対的に低いといわなければならないが、文法書ではすでに16世紀にその記述がみられ、等閑視されつつも現代に至るまでその存在は文法家たちにみとめられてきている。個別の研究対象として文法研究のなかで扱われ始めるのは1960年代の初め頃からであり、それぞれ異なった立場で研究がなされてきた。たとえば、上部ドイツ語に生じた「過去形消失」との関連で、その出自や体系的位置付け、あるいは標準語か方言かの問題について、一方またフランス語にみられる類似現象との対照比較や、時称意味論的、アスペクト意味論的視点からの個々の意味用法の抽出などである。
本発表では、考察の対象をb)タイプに絞り、その意味用法についてこれまで議論されてきた幾つかの解釈を確認したうえで、この統語形式が担う文法的な役割について考察することにしたい。そのさい、完了構造を持つ時称形式との形態論的・意味論的関係から、時間性とアスペクト性という観点を考慮に入れ、ひとつの試みとして動詞カテゴリー内における位置付けを行ってみたい。



2.第24回言語学リレー講義
発表者:三谷 惠子 氏 (京都大学)
題目:ロシア語およびスラヴ語の動詞の<体(たい)>について

[要旨]

0)はじめに。スラヴ諸言語の動詞には<体(たい vid)>がある。「体」とはどのようなものなのかを、形態統語論的特徴および意味機能の両面から取り上げ、文法範疇としての「アスペクト」について考える材料を提供したい。

1)<体>の形態論的特徴について。ドイツ語やロシア語で名詞にそれぞれ固有の文法的性があるのと同じように、スラヴ語においては動詞が<体>という文法的特性をもつ。すべての動詞は完了体か不完了体のどちらか(機能上両方の体の意味を持つ両体動詞が若干ある)であり、その基本的意味は、完了体が事象を「完結した全体」として表し、不完了体はそのような完結の意味を含まずに提示することにあるとされる。完了体と不完了体は<体>のペアを形成するといわれるが、体の形態論的特徴は部分的にドイツ語の
Aktionsartの形成と共通する。そこでドイツ語との共通点、そして根本的な相違点はどこにあるのかを明らかにする。

2)<体>と語彙意味の関係について。動詞の体はペアをなすとはいえ、もちろんすべての動詞で体のペアが形成されるわけではない。ここには動詞語彙の意味と、完了体、不完了体それぞれの<体>の意味が関与する。この現象に関連して、どのような問題があるかを、動詞の項構造の関連も含めて簡単に述べる。

3)<体>の定義について。スラヴ語学、とくにロシア語学においては<体>の定義付けが大きな議論であり続けた。それはなぜなのか。体の用法上の制約や体の異なりによって生じる意味的違いといった言語事実を指摘しながら、<体>の定義に関する問題について述べる。

4)スラヴ語間の違いについて。動詞の体の存在はスラヴ語全体に共通するが、個別の用法にはさまざまな違いがある。こうした違いのいくつかを例に、体の表す意味の、体に固有の本質的部分とそうでない部分について述べる。


3.総会

[議題]

  • 1.各委員からの報告
  • 2.新委員の選出

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