第38回例会(研究発表会)

日時:1999年5月8日(土) 13:30~17:30

場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

1.研究発表
発表者:石橋 美季 氏(関西学院大学大学院生)
題目:bekommen/kriegen/erhalten + 過去分詞構造の文法的機能

[要旨]

 現代ドイツ語では、次の能動文(a)に対応する受動文は、(b)であって、(c)とはならない。すなわち、能動文の与格目的語を主格主語にした(c)は不可能である。
(a) Seine Mutter schenkte ihm das Buch.
(b) Ihm wurde (von seiner Mutter) das Buch geschenkt.
(c) *Er wurde (von seiner Mutter) das Buch geschenkt.
けれども、(c)との関連を考慮するとき、いわばその代替表現として次の(d)のような文が散見される。
(d) Er bekam (von seiner Mutter) das Buch geschenkt.
しかしながら、文(d)を「受動文」と位置付けるべきか、それとも「目的格補語をとる能動文」と解すべきかについては、大きく議論が分かれている。
本発表では、(d)のような文構造を「bekommen/kriegen/erhalten + 過去分詞構造」という形で一般化し、この構造の位置付けと、その統語的・意味的機能の解明を目標とする。その端緒として、本発表ではこれまでの議論を整理して、問題の所在を明らかにし、その上で、この構造の位置付けについて考察していきたい。



2.報告
発表者:桐川 修 氏(奈良高専)
題目:インターネットを利用したドイツ語教育の可能性について

[要旨]

インターネットが急速に発達している。1997年の統計でもすでに世界で少なくとも1,600万台のコンピュータがこれに接続され、5,000万人以上が定期的に利用しているといわれている。また最近ではインターネットを教育に利用する研究も数多く、その中でも語学教育の分野ではインターネットの特性を十分に生かした新しい教育方法の展開が期待されている。インターネットをどういう形で語学教育に利用するかという点で、次の三つの分野が考えられる。まず各種情報を収集するためのいわば『情報源(Informationsquelle)』としての利用である。以前より語学教育をおこなう際には言語そのものだけではなくその背景となる各種情報、たとえばドイツ語教育にあってはドイツ語圏の国々の政治、社会、文化など(いわゆるLandeskunde)を併せて学習することにより学習効果をよりいっそう高める努力がなされている。このような観点ではインターネットは教授者・学習者双方にとってきわめて有効な手段を提供してくれる。とりわけWorld Wide Webにおかれたホームページはその宝庫ともいえるもので、そこではこれまでの時間的・空間的な制約は完全に取り払われている。たとえば新聞社、ラジオ・テレビ局などのホームページからはリアルタイムでドイツ語圏各国の最新のニュース情報を手に入れることができ、また各州、各都市のサーバからはその土地独特の文化的情報を得ることができる。次に『コミュニケーションチャンネル(Kommunikationskanal)』としてのE-Mailの活用があげられる。これは目標言語たとえばドイツ語を用いたE-Mail交換を通じてドイツ語の作文能力向上を目指すものであり、とりわけ2カ国語を用いたE-Mail Tandem Network (Bochum)ではドイツ語と日本語のE-Mail交換によって日本のドイツ語学習者とドイツの日本語学習者との相互学習の場を提供するものとなっている。三つ目としてインターネットを『授業メディア(Unterrichtsmedium)』として利用することが考えられる。文字・音声・映像を一括して取り扱うことのできるマルチメディアの特性を生かして、インターネットをドイツ語学習の中心に据えるものということができる。この分野でもすでにいくつかのインターネット教材が公開されており、学習者はインターネットに接続されたコンピュータさえあれば教授者がいなくてもドイツ語の学習ができるようになっている。今回はこれら三つの領域の代表的サイトを紹介しながら、日本におけるドイツ語教育の分野への応用について考えてみたい。


3.第21回言語学リレー講義
講師:村木 新次郎 氏(同志社女子大学)
題目:単語の中の対称性

[要旨]

 われわれ人間は、われわれをとりまく世界を認識して、その断片をことばとして切りとってきた。これらの断片のなかには、ものごとを相互にむかいあっているものとして対立的にとらえ、そこにしばしば、ふたつの単語をあたえている。語彙の世界には、相反する二つの側面を対立させる性質があちらこちらに走っている。この2項対立は典型的にあらわれる。ふたつの単語が意味的にむかいあっているとはどういうことなのか。われわれが対義語ととらえているものには、いくつかのタイプのものがあり、ひとおおりではない。対義語には、形容詞、動詞、名詞など、さまざまな品詞に属する単語間になりたつものがあるが、それらのいずれについても、あるものの属性を特徴づけていると言うことができる。それらの二項対立の周辺には、融合や中和の現象を始め、対立項がなんらかの理由で欠けているなど、多様なすがたをみとめることができる。単語の世界にみられる二項対立のあり方を、対称と非対称という視点からながめてみたい。


4.総会

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