第37回例会(研究発表会)

日時:1998年12月12日(土) 13:30~17:30

場所: 関西ドイツ文化センター(京都)

<<内容>>

1.研究発表
発表者:金子 哲太 氏(関西大学非常勤講師)
題目:ドイツ語の現在時称の位置付けについて

[要旨]

 現代ドイツ語の文法書で、時称について詳しく調べてみると、個別の項目には個々の意味用法が列挙されるに留まっているものから、時称体系における位置付け、さらに時称そのものの存在を問う根本的な問題にまで言及されているものまであり、統一性が見られない。特に現在時称は、その意味用法が他の時称に比べ多岐にわたっていることから、異なった視点からの記述がみられ、体系的に理解することは難しい。
本発表では主要な文法書を複数用いて個別の事例を考察することによって、現在時称に対して従来とられてきた基本的な考え方を再度確認し、そこに生ずる幾つかの問題点を指摘する。それらを考慮に入れた上で試論的に新しい分類が提案される為の手掛かりとしたい。


2.報告
報告者:河崎 靖 氏(京都大学)
題目:Keltologie の現在

[要旨]

神秘性ばかりが強調されてはなるまい。それでも、今日、アイルランド(愛蘭土)に向けられる最大の関心がそれである。ケルト語は、日一日と衰退への道を辿りながらも、なおヨーロッパの各地に過去の豊かな遺産を残す、魅力に満ちた極西のことばである。そもそも、現在ヨーロッパの中心に陣取るゲルマン語派の名称Germaniaも、所詮、古くはケルト語で「川(ライン川)向こう」という意にすぎなかった。 ケルト人は、紀元前900年頃、今のドイツの地に東方から進入したと言われる(それ以前の先住民については詳しいことはわかっていない)。その後、ゲルマン人が北欧の地から東西に展開しながら南進するに伴い、ケルト人の一部はドイツ西北部からガリア (Gallia) を経てブリテン島を目指して移住し始めた。今日、ケルト学における議論の中心は、ケルト性 (celticity)の再考という問題にあるように思われる。すなわち、ケルトの古い文献(古アイルランド文献)は、その文献以前の時期からの異教的口承文学であるとみなすべきか、あるいは、キリスト教的創作活動(書写的)と捉えるべきかという争点である。今回の報告では、この問題を中心にKeltologieの現況について述べたい。


3.第 20 回言語学リレー講義
講師:脇阪 豊 氏(元天理大学教授)
題目:対極性と曖昧性

[要旨]

 ほぼ以下のようなプログラムを予定しています。第 1 部では、若干の歴史的な整理をした上で考え方の共通事項を設定してみるつもりです。第 2
部では、現在の会話分析で関心が持たれている、Gesprachsrhetorik
の観点からいくつかの事例研究を紹介し、今後に期待できる言語研究への提案を、「対極性と曖昧性の」観念のもとで行いたいと考えています。プログラムにはいくらか変更があるかもしれませんが、大筋のところをあらかじめお知らせします。ご批判やご提案を期待しつつ。

Motto (Wittgenstein: “Philosophische Untersuchungen” 76. 1960: 329)

 Wenn Einer eine scharfe Grenze zöge, so könnte ich nicht als die anerkennen, die ich auch
schon immer ziehen wollte, oder im Geist gezogen habe.
第1部:歴史的および現在的概観 (1950-1990)
人間の知的営みは、テーゼとアンチテーゼの積み重ねにより展開する。
◆ 初期の展開 (言語考察のための基礎作業)

      • 1. 1957 N. Chomsky:統語論から意味論へ

    「言語の構造についてのこの純粋に形式的な研究は意味論研究にもある種の興味深い含みをもっていることを示唆しよう…。」(『文法の構造』:1)

      • 2. 1964 P. Hartmann:センテンスからテクストへ

    Sprache in Textform ist also eine Zustandsform wahrnehmbar gemachter oder gewordener Sprache.

    (“Bogawus” 2, 15-25)
  • 3. 1673 S. J. Schmidt : テクスト言語学からテクスト理論へ

言語考察をその関連領域に広げることの提唱 (“Texttheorie” 1973)

◆ 後半での傾向(言語学とその関連分野):言語学と心理学、言語学と社会学など
4. 行為理論と認知科学:コミュニケーション科学
5. 言語と情動の関係:ネットワークの考え方(関係性へ新たな視点)
第2部:原理と実際 Polaritätと Ambiguität

      • 1.モデル(「理想型」)は2種の原理に関与している。

    1.人間の選択能力の特徴と限界2.「論理」的方法の必要条件

a. モデルの調整的機能:「依拠と判断の基準」を与えながら、統一的な方向を探る。
b. モデルの操作的機能:調査的機能とコントロール機能
◎理想型のモデルから実践型のモデルへ:対極性から中間点の位置づけ→曖昧性の追求

    • 2. 事例研究

テクストの展開において、ある「表現単位」がその「意味単位」としての役割を変化させていくこと

    • 3. 展望と提案

1.方法論的に:マルチメディアの言語研究上の可能性2.対照研究として:Ich-Origo に対する Wir-Origo

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