第101回例会(WEB開催)

視聴・閲覧期間:2020年9月12日(土)13:00~9月19日(土)16:40

要旨説明・質疑応答/総会:2020年9月19日(土)13:30 ~16:40

<<内容>>

研究発表会

研究発表1
発表者:中西 志門 氏(京都大学大学院生)
題目:ベオウルフにおける時を表す副詞的格の用法とその解釈への考察

[発表要旨]

 通常、文中における時・場所・様態のような付加的な意味は、副詞や前置詞句によって表される。しかし、古英語のような名詞に格変化を有する言語では、しばしば名詞の曲用形が同様に機能しえた(格の副詞的用法)。古英語において副詞的に機能した3つの格(属格,与格,対格)がどのような意味を表していたのか、またそれは前置詞句とどのように機能を分け合っていたのかという点について、これまで大きな注意が払われて来たとは言い難い。本発表では古英語叙事詩『ベオウルフ』を主な資料としてそれぞれの表現の分布や振る舞いを明らかにし、その理由の一つとしてそれぞれの格のスコープが異なっていた可能性があると主張する。


研究発表2
発表者:宮下 博幸 氏(関西学院大学)
題目:心態詞 denn が表す意味とは何か:「感情」の観点からの分析

[発表要旨]

 心態詞はしばしば Modalpartikel と呼ばれるが、心態詞に modalな機能はあるのか、あるとするとどのようなものなのかは、これまでのところ明らかでない。本発表では心態詞の modal な機能とは「感情」であるという立場を、疑問文で現れる心態詞 dennを例に展開したい。心態詞 denn の機能については、これまで「疑問行為のコンテクストへの関連付づけ」(König 1977, Theiler 2020)、「標準的疑問のマーカー」(Thurmair 1991, Bayer 2012)、「好ましさ、驚き、非難」(Hentschel/Weydt 1983, Helbig 1990) と様々な見解がある。本発表ではそれぞれの問題点を指摘し、Russell (2003) の感情モデルを援用しつつ、denn の機能は「話し手の感情の活性化の表示」であるとする立場を提案する。またこの立場に立つと、これまでの研究の問題点が解決できる可能性があることを示したい。

 


研究発表3
発表者:野添 聡 氏(京都大学大学院生)
題目:ノートカーの翻訳文献における古高ドイツ語動詞接頭辞 ge- について

[発表要旨]

 接頭辞 ge-は、完了相化の機能を持つと考えられてきた。先行研究では、この接頭辞は後代に発達した現在完了形との競合の末に衰退したと考えられている。しかし、ge-動詞の直説法現在形と現在完了形の競合関係は、今日まで十分に実証されたとは言い難い。他方で、古高ドイツ語の ge-動詞の直説法現在形は未来の動作を表すと考えられているが、この機能の有無に関して先行研究の間では意見が対立している。本発表では、ノートカーによるラテン語からの翻訳文献である『哲学の慰め』と、今日まで体系的な語法研究がほとんど行われていない『フィロロギアとメルクリウスの結婚』を分析対象として、古高ドイツ語動詞接頭辞ge- の機能の実証的な解明を試みる。


研究発表4
発表者:横山 由広 氏(慶應義塾大学)
題目:ハルトマン・フォン・アウエは本当に kam と言っていたのか?

[発表要旨]

 Hartmann von Aue の初期の作 ?Erec? から最後の作品 ?Iwein? にかけてみとめられる言語上の諸変化の中で、動詞komen ?kommen? の過去形による押韻が ?Iwein? の冒頭1000 行の後、ほぼ行なわれなくなったという Konrad Zwierzina (1898) の所見は従来、アレマン人Hartmann が、自身の方言形で押韻に適した kam (: nam ?nahm?) による押韻を反復した後、他地域では komen の過去形はkom で、押韻できないことを認識した結果とされ、議論の焦点は当該方言地域の特定であった。発表者は、Zwierzina が「突然」と見なした上記 ?Iwein? 途中での変化に Volker Mertens (1978) がみとめた幅よりも、さらに広範にわたる移行段階を推測するようになったが、問題の kom 通用地域の特定には至っていない(Yoshihiro Yokoyama (2014))。本発表では、Zwierzina の上記所見を Hartmann に特徴的な文体変遷の一例と見なす、発表者の目下の仮説の検証を試みたい。


要旨説明/質疑応答(Zoom会議)
司会者:薦田 奈美 氏/河崎 靖 氏


定例総会

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