場所: 関西ドイツ文化センター(京都)
<<内容>>
1.研究発表
発表者:塩見 浩司 氏(関西大学非常勤講師)
題目:ゴート語の動詞接頭辞 ~統計的考察の試み~
[要旨]
ゴート語は最古のゲルマン語として最もまとまった資料を提供していることは論を待たない。その資料の大部分はコイネーで書かれた新約聖書の翻訳であるが、これは原典であるギリシャ語に極めて忠実に従っているものとして知られている。ここで興味を引くのは動詞の問題であろう。ギリシャ語は動詞の活用体系が非常に豊富であり、アスペクトを有している。このような言語で書かれたものを動詞の活用体系に乏しいゴート語に翻訳する際にはそれなりの工夫が必要であったろうことは想像に難くない。そういった工夫のひとつとして動詞接頭辞の使用が考えられるのではないか。本発表はゴート語の動詞およびその接頭辞の意味や機能について考察を試みるものであるが、その際には新約聖書中に見られるゴート語動詞の用例をギリシャ語原典のそれと対比させるため現在作成中の『ゴート語・ギリシャ語動詞データベース(仮)』を用いる。
発表者:坂口 文則 氏(福井大学)
題目:翻訳によって伝達される情報量を計量する試み
[要旨]
数理科学と言語学の間にはさまざまな接点を探ることができるが、その一つとして、C. Shannonらによって「情報通信の数理的理論」として20世紀半ばに定式化された「情報理論」が、自然言語の分析とどのような接点をもちうるかを考えてみたい。一つの試みとして、時制体系の異なる言語間の翻訳において動詞の時制に関する情報がどれだけ伝達されるのかを、情報理論で定義される「相互情報量」を用いて量的に測定することを試みる。また、自然言語をこのアプローチに載せる際に解決しなければならないいくつかの問題点についても触れる予定である。
3.研究発表
発表者:成田 節 氏(東京外国語大学)
題目:ドイツ語と日本語の受動文をめぐって
[要旨]
ドイツ語と日本語の受動文を比較しながら両言語における受動文の意味的な特徴を探り出すことを目指す。多くの文法書には、受動文と能動文は視点が異なるという叙述が見られるが、この「視点」という概念の再検討がまず必要だ。ここでは「注視点」(どこを見ているか)と「視座」(どこから見ているか)の区別を明確にした上で、ドイツ語の受動文の特徴を捉えるさいには「注視点」が重要だが、日本語の受動文の特徴を捉えるさいにはむしろ「視座」が重要になるという考えを軸に、結合価の減少(ドイツ語の受動文)と増加(日本語の受動文)の対立、被害の3格(Dativ incommodi)と日本語の迷惑受身の対応などの問題にも触れながら考察を進める。また、単なる理屈だけに終わらないように、日本語の小説の原文とドイツ語訳を用いて、それぞれの受動文が実際にどのように用いられているかを観察する。